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「ガリレオが開いた宇宙の扉」 [科学]

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  著者は国立天文台の渡部潤一さん。
  旬報社、2008年刊。

1 ガリレオの望遠鏡
  ガリレオ・ガリレイ(1564~1642)は、1581年、17歳の時にピサ大学で医学の勉強を始めるが、学費が払えず退学。
  その後、ピサ大学やパドバ大学で数学の教授に就任。
  物理に関する様々な実験を行った。
  1602年、38歳の時に、振り子の等時性という画期的な発見した。

  1608年頃にオランダで望遠鏡が発明され、ガリレオは早速それを改良し、1609年に倍率20倍の望遠鏡を製作した。

2 ガリレオが望遠鏡で見たもの
(1)月
  それまでは完全無欠の球体と考えられていた月の表面に、山や谷といった凹凸があることを発見した。
  また、丸い形をしたくぼみ、クレーターをたくさん見つけた。

(2)木星
  木星のまわりに四つの衛星があることを発見した。
  木星のまわりを四つの衛星が回り、木星とそれらの衛星が太陽の周りをまわっている。
  月が地球の周りをまわり、地球と月が太陽の周りをまわるのと同じであることを確信した。

(3)太陽
  太陽を直接観察し、その表面に無数の黒点を発見した。
  また、黒点が生成消滅を繰り返すこと、それらが約一か月で太陽の自転とともに動いていくことなどを発見した。

  しかし、彼は望遠鏡で太陽を直接観察したため、網膜を損傷し、ついには視力を失うことになった。

(4)天の川
  天の川が、肉眼では見ることができないような無数の星の集まりであることを発見した。


3 宗教裁判
  1633年、69歳の時にローマ教会で宗教裁判にかけられた。
  その結果、今後、異端とみなされる行為をしないことを約束させられ、自宅謹慎となった。
  この判決が誤りであるとローマ教会が公式に認めたのは、360年後の1992年になってからである。

4 ガリレオ以後の発見
(1)銀河系モデル
   18世紀、円盤状の恒星の集まりの中に地球があり、天の川はその円盤状に集まった星の集団、という銀河系の概念が作られるようになった。
   しかし、太陽がその中心部分に位置しているという、自己中心的な考え方から抜け切れていなかった。
   太陽が銀河系の中心から離れたところにあると考えるようになったのは20世紀に入ってから。

(2)数多くの銀河
   1920年代、アメリカの天文学者ハッブル(1889~1953)は、アンドロメダ大星雲が、銀河系の外にあり、太陽を含んでいる銀河系の中の星雲ではなく、銀河系と同じような星の集合体である「銀河」の一つであることを発見した。 

   ハッブルはその後、アンドロメダ大星雲以外にも、次々と星雲を発見した。
   こうした発見が、我々が住んでいる銀河系が宇宙の唯一の存在ではなく、無数に存在する銀河の一つに過ぎないことを認識する転換点となった。
 
(3)膨張する宇宙
   ハッブルは、また、数多くある銀河が一般に遠ざかっていること、その遠ざかるスピードは、その銀河までの距離に比例しているという、法則を発見した。
   これは宇宙全体が膨張していることを意味していた。

(4)ビッグバン理論
   1948年、ロシア生まれのアメリカの物理学者ガモフは、宇宙は巨大な火の玉が爆発的に膨張して生まれ、現在宇宙に存在する元素は、このビッグバン直後の数分間に作られた、と考えた。
   その後の観測で、宇宙はビッグバンで始まり、いまでも膨張を続けていることが立証された。

(5)暗黒物質
   2000年以降、人工衛星からの観測で、宇宙全体の4%が通常の物質、20%が暗黒物質、76%が暗黒エネルギーであることが分かってきた。
   しかし、暗黒物質と暗黒エネルギーの中身についてはほとんどわかっていない。

   宇宙は依然として、謎に満ちている。

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「日本天才伝 知られざる発明・発見の父たち」 [科学]

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  著者は科学ジャーナリストの上山明博さん。
  朝日新聞社、2007年刊。

  明治、大正の時代から、日本人によりノーベル賞級の発見がなされていた。

1 高峰譲吉(1854~1922) 
高峰譲吉.png

  工部大学校(後の東京大学工学部)を首席で卒業し、その後、3年間の英国留学を命じられ、グラスゴー大学などで学んだ。
  帰国し、農商務省で清酒などの製造法の応用研究に着手する。
  1884年、ニューオーリンズの万国工業博覧会を視察し、化学肥料の重要性を知った。
  財界の渋沢栄一の支援により、肥料会社を設立し、社長に就任した。

  また、同時に、応用化学の研究を開始し、発酵能力を飛躍的に向上させる種麹の開発に成功する。
  この研究に着目したアメリカのウィスキー会社から招聘を受け、肥料会社を退職して、アメリカに渡る。
  アメリカで研究を重ね、苦心の末、消化酵素の「タカジアスターゼ」を精製することに成功。
  特許を取り、販売を開始、全世界で大ヒットとなる。
  
  その後、ホルモンの一種、アドレナリンの抽出にも成功する。
  アドレナリンは、世界最初に結晶化されたホルモンであった。

  高峰は、タカジアスターゼとアドレナリンの特許収入によって巨万の富を築き上げ、資産は3千万ドル(現在の日本円で6兆円)以上と言われた。

2 高木貞治(1875~1960)
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  東京大学理学部数学科を卒業後、ドイツへ留学。ドイツ大学などで世界的に名の知れた数学者のもとで代数学を勉強した。
  そして、ヒルベルトという数学者が提起した「クロネッカーの青春の夢」という未解決の難問に取り組む決意をする。
  帰国後、東京大学理学部数学科の助教授に就任し、研究を続け、「クロネッカーの青春の夢」を類体論という理論体系を創出することにより、解決することができた。
  1920年に、その論文を発表し、日本で最初の世界的な数学者として内外から脚光を浴びた。
  1932年には、数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞の第1回選考委員に指名された。

3 増本量(1895~1987)
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  東北大学金属材料研究所に所属した。所長はKS鋼を発明した本田光太郎。
  増本は1924年、29歳の時にコバルトの変態(一定の温度で結晶の形態が変化し、性質が大きく変わる)を発見した。
  コバルトには変態はないという、それまでの通説を覆し、変態があることを世界で初めて発見した。

  スイスの物理学者が1897年に、温度変化により膨張率が変わることのない「インバー(不変鋼)」を発見し、ノーベル賞を受賞したが、増本は1927年に「インバー」を上回る「スーパーインバー」という膨張率がゼロに近い合金を発見した。

  そのほか、導磁率が極めて高い合金「センダスト」、剛性率の温度計数がほぼゼロの合金「コエンリバー」、世界最高の磁石鋼「新KS鋼」などの発見に貢献した。

4 田原淳(1873~1952)
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  東京大学医学部を卒業し、1903年、30歳でドイツのマールブルク大学に留学。
  そこで心不全を起こす原因について研究。それまで通説だった炎症説を否定した。
  また、心臓がなぜ自動的に拍動するかということについて研究し、房室結節からヒス束を経由し、プルキンエ線維にいたる一連の心筋組織が、心臓が自動的に鼓動する「刺激伝導系」であることを突き止めた。
  1906年、この研究結果をドイツの出版社から出版した。
  心臓刺激伝導系の全容を初めて解明し、世界の医学界に大きな衝撃を与えた。

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アメリカンフットボール [スポーツ]

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 アメリカンフットボールは、見て楽しむスポーツとしてはアメリカでもっとも人気がある。
 2位はバスケットボール、3位は野球となっている。

1 アメリカンフットボールの概要
 アメリカンフットボールは、それぞれ11人のプレーヤーが出て戦う(サッカーと同じ人数)。
 どちらかが攻撃(オフェンス)権を持ち、4回、プレーをすることができる。
 ボールを持ったプレーヤーが相手に止められれば、1回のプレーが終わる。
 4回の間に、10ヤード前進すれば、さらに4回の攻撃権が与えられる。
 守備(ディフェンス)側は、相手の前進を必死にくいとめようとする。
 攻撃側が、だんだん前に進み、敵陣のラインを越せば得点になる(タッチダウン)。
 10ヤード前進できなければ、相手に攻撃権が移る。
 3回目までに10ヤード進めなければ、4回目はボールを敵陣深くに蹴りこむことが多い。

 攻撃側は、ボールを持って走っても良いし(ランプレー)、また、先に走りこむ人にボールを投げてもよい(パスプレー)。
 ランプレーは堅実であるが、相手の守備陣に止められやすい。
 パスプレーは、成功すると距離を大きく稼ぐことができるが、受ける方がボールをつかみ損ねたり。相手にボールを奪われてしまうリスクがある。

 プレーヤーは、攻撃側と守備側、さらにはそのそれぞれのポジションまで専門化している。
 このため、攻撃するときと守備するときで、プレーヤーが全面的に入れ替わる。
 プレーヤーの中で最も重要なポジションは、攻撃側の司令塔となり、かつ、パスを投げる役割を担うクオーターバック。

 1チームのグラウンド上のプレーヤーは11人であるが、攻撃と守備を合わせると22人、さらに控えの選手を含めると46人まで、出場できる。加えて、スタッフも大勢いるので、1チーム100人近くになる。

2 プロリーグ
 プロリーグ(NFL)は32チームがあり、毎年9月から12月にかけて各チーム16試合を戦う。
 その後、1月にプレーオフがあり、2月に行われるスーパーボウルでその年のチャンピオンチームが決まる。
 レギュラーシーズンの、1試合の平均観客動員数は6万7千人で、また、テレビの視聴率も大変高い。
 2020年の東京オリンピックが真夏の8月に開かれることになったのも、アメフトのシーズンを避けてのことといわれている。 

 1967年以降のスーパーボウルの覇者となった回数は、ピッツバーグ・スティーラーズが6回で最も多い。
 ニューイングランド・ペイトリオッツ、ダラス・カウボーイズ、サンフランシスコ・49ersがそれぞれ5回で続いている。

<スーパーボウル>
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 昨年の覇者は、ニューイングランド・ペイトリオッツ。
 今年も、ペイトリオッツは強く、アメリカのスポーツ専門週刊誌「Sports Illustrated」は、来年2月4日に開かれるスーパーボウルで、ペイトリオッツがグリーンベイ・パッカーズを31対27できわどく破り、連覇を達成し、優勝回数6回となり、ピッツバーグ・スティーラーズの6回に並ぶ、と予測している。

 ペイトリオッツは、トム・ブラディという全米一のクオーターバックがいるのが強み。

 来年のスーパーボウルに駒を進めると予測された、グリーンベイ・パッカーズは、優勝回数4回の強豪チーム。
 アメリカ中西部ウィスコンシン州で、カナダとの国境に近いグリーンベイ市にホームグラウンドがある。同市の人口は10万人で、NFLのチームのホームタウンとしては最も少ない。
 しかし、ウィスコンシン州はもとより、全米に熱狂的なファンを持ち、NFLのチームの中でも屈指の人気を誇っている。

3 大学リーグ
 カレッジフットボールも大変人気が高い。
 強豪校は10万人規模のスタジアムを敷地内に持ち、1試合平均の観客動員数は8万人以上と言われている。
 「BIg-Ten」というリーグに所属する中西部の大学や、「Pac 12」というリーグに所属する太平洋岸の地域の大学が比較的強い。
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「フランク・オコナー短編集」 [海外文学]

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  岩波文庫の一冊。2008年刊。
  フランク・オコナー(1903~1966)は、アイルランド出身の作家。

「国賓」
  1919年から始まったアイルランド独立戦争ならびに、それに続くアイルランド内戦で、アイルランドがイギリスと戦っていた時の話。

  捕虜となってしまった二人のイギリス人は、監視するアイルランドの若者たちと、打ち解けて話をしたり、トランプをして暇をつぶしていた。
  二人は、逃げ出そうなどという気はさらさらなく、今のままでいることに何の不満もなさそうだった。
  一人はおしゃべりで、アイルランドの若者に宗教のことで議論をしたりした。
  (アイルランドはカトリックで、イギリスはプロテスタント)

  敵同士にもかかわらず、友情といった感情さえ芽生え始めていたころ、イギリス軍がアイルランド人の捕虜4人を処刑したことが分かった。このため、アイルランド軍は報復として、捕虜のこの二人を処刑することに決め、監視していた若者たちに処刑を実行するよう命令してきた。

  監視の一人は、捕虜の二人が抵抗するか逃げてくれればいいと思った。
  しかし、二人は抵抗も逃げもしなかった。
  監視の一人が、銃の引き金を引いて、二人を処刑した。

「ある独身男のお話」
  その男には、結婚を前提に付き合っている女の子がいたが、その子が他に二人の男と付き合っていることが分かり、別れた。あまりに傷つき、それ以来、女ぎらいになった。

  他に二人も同時に付き合っている男がいると分かった時、彼はその女の子を詰問した。
  その女の子は、こう言った。
  「昔、ある男の子に、付き合ってくれって言われて、断ったことがあるの。
  そうしたら、彼は自殺してしまった。本当に恐ろしいことよ。
  単なる遊びだと思ってた。彼のことをどんどんけしかけて、おもしろがってた。
  男の子が何を考えてるかなんて、分かるわけないじゃない。」
  
  それ以来、彼女は付き合ってくれと言われると、断れなくなった。

  彼は言った。
  「君はこれからも自分の前に現れるまじめな気持ちの人間たちを次々に欺き、出し抜いていくわけか。お慈悲ゆえに。」

  この話を彼から聞いた友人は、彼女のやさしさに惹かれた。
  「何か危ない気がするからこそ、そういう女性に惹かれるのじゃないか?
  いい女っていうのは、過去にそういう自殺沙汰でも起こしたように見えるものなんだよ。
  だから、彼女だっていい女だという気がする。
  君はもったいないことをしたと思うよ。」

「はじめての懺悔」
  (懺悔とは、信者が神父と面会し、それまでに自分が犯した罪を告白して許しをもらうという、キリスト教の儀式。信者の告白を聞いた神父は助言を与え、罪の内容や大きさに応じて償いを命ずる。)

  初めて懺悔をする男の子の話。
  懺悔の時に、犯した罪を言わずにいたり、うその懺悔をすることは、地獄に落ちるような大罪だ。
  僕は懺悔が死ぬほど怖かった。
  あれやこれやで、ぼくはモーゼの十戒はみんなやぶっているのだ。

  懺悔の部屋に入り、ぼくは神父様に懺悔をした。

  僕はばあさん殺害計画を立てました。
  うちのばあさんは、黒ビールを飲んだり、タバコを吸ったり、裸足で歩き回るんです。
  死体は、バラバラにして、僕の手押し車に載せれば運びだせるかなと思いました。

  僕は姉ちゃんのことも殺そうとしたんです。
  パンナイフを使って、テーブルの下で。うまくいかなかったけど。

  神父さんが言った。
  君と同じように私だって殺してやりたいと思っている連中はたくさんいる。
  だけど、なかなか思い切れないんだ。
  絞首刑になるのは怖いしね。
  絞首刑になる人は、みんな、やらなきゃよかったって言ってたぞ。

  教会の外まで神父様が僕を送ってくれた。
  神父さまとおわかれするのが本当に残念だった。
  教会で会う人の中ではずぬけて面白い人だったから。


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「人間ぎらい」 [海外文学]

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  フランスの作家、モリエール(1622~1673)が44歳の時に発表した戯曲。

  舞台は17世紀フランスの貴族社会。
  主人公は、純真で曲がったことが嫌いな青年貴族アルセスト。
  若い未亡人セリメーヌを愛している。

1 主人公アルセストは、社交界の人たちが、思ってもいないお世辞を口に出し、陰では悪口を言うのに我慢が出来ない。思ったこと、毒舌めいたことを口に出し、周りの人のひんしゅくを買う。

アルセスト:「人間は人間でありたいのだ。どんな場合にも、僕らの心の奥底を僕らの言葉に表したいのだ。僕らの心がそのまま、僕らの言葉でありたいのだ。僕らの感情を口先ばかりのあいさつで覆いたくはないのだ。」

友人:「率直一点張りというやつは、時によると、笑われ者になることがあるあるものだよ。心に思っていることを押し隠すのが、いいこともあるものだよ。あいつはどうも嫌な奴だ、気に食わないやつだと思ったら、すぐそれを、そのまま言ってしまっていいものだろうかね。」

アルセスト:「みんなが交際しあってる様子を見ると、歯がゆくてたまらなくなる。情けなくなってしまう。どこへ行っても、卑しい阿諛追従ばかりだ。奸計ばかりだ。一切の人間が嫌でたまらない。僕はあらゆる人間を憎む。」

アルセスト:「邪悪にして悪事を働く連中。口先だけの人に慇懃を尽くす連中。悪事に対して憎悪の念を抱かない連中。悪だくみをする連中が、みんなに許されているのを見ると、僕はもう生きてる気持ちがしない。時にはどこかの砂漠にでも逃げ出して、人間と絶縁したくてたまらなくなるんだ。」

友人:「人間の性質を、少しは大目に見ることにしようじゃないか。厳格一点張りで見るのは止そうじゃないか。人の欠点を見るのでも、少しは寛大な心で見ようじゃないか。交際社会では、ゆとりのある心が必要だ。聡明一点張りでは、人に非難されないとも限らない。」

友人:「完全な理性は、あらゆる意味の極端を避け、程度のよろしきを得た聡明を欲する。昔のまるで融通の利かない道徳は、現代にあってはことごとく衝突する。相対的な人間に対して、絶対的な完全を要求する。我々は我を捨てて、時代に服従しなければならん。」

2 主人公アルセストは、時代の悪習にどっぷりと染まった若い未亡人セリメーヌを愛してしまってる、

友人:「現代の悪風習を呪いぬいている君が、あの女の時代かぶれな言動に我慢しているなんて、おかしな話だよ。」
 
アルセスト:「僕はあの若い未亡人に愛を感じているからといって、あの女の欠点が見えないわけじゃない。僕はいくらあの女の欠点を認めても、非難しても、ついあの女を愛する気になるのだ。あの女の美しさが何より強いのだ。僕はきっと今に、時代の悪風習に染まったあの女を、僕の恋の力で洗い清めてやる。」

女性の友人:「何事にも真剣を誇りにしていらっしゃるところは、それなりにどこかきりりとした、雄々しいところがおありですわ。今の世の中では、ほんとに珍しいお心掛けで、あたくし、どなたにもあのような心掛けでいていただきたいと思いますわ。」

友人:「僕はアルセストがなんだってあんな恋をしているのか不思議でならない。」

女性の友人:「セリメーヌが本当にアルセストを愛しているかどうか、判断がつきかねる。セリメーヌは自分で自分の心がはっきりしない人ですから、時には恋をしていながら、はっきりとそれを知らずにいることもある。また時には、何ということもないのに、恋をした気になることだってある。」

3 アルセストは、セリメーヌに対して、一緒に人里はなれたところに行ってくれないかと頼むが、断られる。

アルセスト:「僕はあなたのだいそれた罪を忘れたいと思います。しかしそれも、一切の人間から離れようとしている僕の計画に同意してくださらなければだめです。これから行って住もうと思っている人里離れたところへ、すぐにも僕と一緒に行く決心をしてくださらなければだめです。」

セリメーヌ:「でも、まだ年寄りでもないのに世捨て人になるのでしょうか。二十歳そこらのものには、恐ろしくてなりませんわ。」

アルセスト:「僕は、悪事が跋扈している渦中を離れ、人里離れた場所をこの地上に探し求めて、何の束縛もなく、名誉を重んずる人間として生きるんです。」

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「夢十夜」 (その2) [日本文学]

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第六夜
  運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいるというので見に行った。
  「よくああ無造作にノミを使って、思うような眉や鼻ができるものだな」と感心していったら、隣の男が、「あれは眉や鼻をノミで作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、ノミと槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだから決して間違うはずがない」と言った。

  自分は初めて、彫刻はそんなものかと思った。
  そうなら誰にでもできることだと思い、急に自分も仁王を彫ってみたくなった。

  薪にするつもりだった樫の木を、勢い良く彫り始めてみたが、仁王は見当たらなかった。
  片っ端から彫ってみたが、どれもこれも仁王を隠しているのはなかった。
  (あたかも中にあるものを掘り出すような仕種こそ、天才の証)

運慶 仁王.png

第七夜
  黒い煙を吐く、大きな船に乗っていたが、孤独を感じ、つまらなく、死ぬことに決心した。
  あたりに人のいない時に、思い切って海へ飛び込んだ。
  ところが、自分の足が甲板を離れた瞬間、急に命が惜しくなった。
  心の底からよせばよかったと思った。
  しかし、もう遅い。
  大変大きな船で、身体は船を離れたけれども、すぐには海に着かない。
  ただ、次第次第に水に近づいてはくる。
  自分は、やっぱり乗っている方がよかったと悟りながら、無限の後悔と恐怖を抱いて、黒い波の方へ静かに落ちていった。
  (自殺する瞬間に後悔する人がどのくらいいるかは分からないが、死ぬ間際は暗い海の中に落ちていくような感覚なのだろうか)

第八夜
  床屋に行き、髪を刈ってもらうために、椅子に座った。
  正面の鏡から、窓の外を通る往来の人が見えた。
  床屋の男が、自分の後ろに来て、自分の頭を眺め出した。
  「頭もだが、どうだろう、物になるだろうか」と自分はその男に聞いた。
  その男は何も答えずに、ちゃきちゃきと鋏を鳴らし始めた。

  帳場格子の中で、女が十円札(今の五千円札ほど)を勘定している。
  札の数を読んでいるが、いかにも早い。
  しかも札の数はどこまで行っても、尽きる様子がない。
  洗髪の後、戻ってみると、その女は見えなくなっていた。

  代を払って表に出ると、金魚売がいた。
  金魚売は自分の前に並べた金魚を見つめたまま、頬杖をついてじっとしている。
  自分はしばらく立って、この金魚売を眺めていた。
  (他の人が、それぞれ自分の仕事をしているように見えるが、自分とのかかわりは少ない)

第九夜
  戦のために、夫は家を出ていった。
  若い妻は、子供を背負って、近くの八幡様に御百度を踏みに行くのが常であった。
  夫は侍であるから、弓矢の神の八幡へ、こうやって願を掛けたら、よもや聞かれぬ道理はなかろうと一途に思い詰めている。

  まず、拝殿の前で鈴を鳴らして、直ぐにしゃがんで柏手を打つ。
  それから一心不乱に夫の無事を祈る。
  その後、子供を背中から降ろし、細帯で縛り、もう片端を欄干にくくりつける。
  子供は、細帯の丈の許す限り、広縁の上を這いまわる。
  その間に、妻は二十間の敷石を行ったり来たり御百度を踏む。

  こういう風に、幾晩となく、夜も寝ずに心配していた夫は、とっくの昔に浪士のために殺されていた。
  (戦で命をなくす者も多かったであろうが、このような妻と子供は、この後、生活をしていくことができたのであろうか?)

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第十夜
  男は水菓子屋で、きれいな女の人が買った品物が重そうだったので、その人の家まで持って行ってあげることにした。
  二人は電車に乗り、山に行き、非常に広い原の草の上を歩き、絶壁のてっぺんに出た。
  女は男に、ここから飛び込んでご覧なさい、と言った。
  男は再三辞退した。
  女は、もし思い切って飛び込まなければ、豚に舐められますが、ようござんすかと聞いた。
  男は豚が大嫌いであった。

  すると豚が鼻を鳴らしてやって来た。男が豚をステッキで打つと、豚は絶壁の下に落ちていった。
  しかし、見ると、幾万匹か数え切れぬ豚が、群れをなして一直線に、男をめがけて鼻を鳴らして来ている。
  男は、必死に豚の鼻頭を七日六晩、叩き続けた。
  とうとう精魂が尽きて、しまいに豚に舐められてしまった。

  七日目の晩に家に戻ったが、急に熱がどっと出て、床に就いたが、助かるまいとみられた。
  (きれいな女の人は危険?)

 
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「夢十夜」 (その1) [日本文学]

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  夏目漱石が41歳の時の作品。
  1908年7月から8月にかけて、朝日新聞に連載。

  10日間にわたる夢の内容を記述するという構成。

第一夜
  女が死ぬ直前、墓のそばで待っていてください、また会いに来ますから、と言った。
  百年待っていてください、と言って死んだ。  
  自分は女の言う通り待った。
  勘定してもしつくせないほど、赤い日が頭の上を通り越して行った。
  
  すると、青い茎が延び、細長いつぼみが、花びらを開いた。
  真っ白な百合が、鼻の先で匂った。
  ぽたりと露が落ち、花は自分の重みでふらふらと動いた。
  自分は、白い花びらに接吻した。
  百年はもう来ていたんだなと、この時初めて気がついた。
  (女が百合になって約束通り会いに来た)

第二夜
  禅寺で、和尚から与えられた「無とは何か」という課題が解けない。
  和尚は、侍なら悟れぬはずはない、お前は侍ではあるまい、人間の屑だ、と罵った。
  時計が次の刻を打つまでに悟ってみせる。そして、和尚の首を取る。
  悟れなければ、自刃する。
  
  しかし、どうしても悟ることができない。
  頭が変になった。周りのものが有って無いような、無くって有るように見えた。
  そのとき時計がチーンとなった。
  侍は、右手をすぐ短刀にかけた。
 (侍は、無の境地に達したのに、死のうとしている?)

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第三夜
  眼が見えない子供をおぶって、歩いている。
  子供が森の方に行くように指示をする。
  「背中に小さい小僧がくっついて、その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照らして、寸分の事実も漏らさない鏡のように光っている。しかもそれが自分の子である。そうして盲目である。」

  杉の根のところで、その子は「お前がおれを殺したのはちょうど百年前だね」と言った。
  自分は、今から百年前に、この杉の根で、一人の盲目を殺したという自覚が、こつぜんと頭の中に起こった。
  おれは人殺しだったんだなと初めて気がついた。
 (前世に重罪を犯していたことを、子供によって自覚させられる。子供は鏡?)

第四夜
  爺さんが、柳の木の下にいた三、四人の子供たちを相手にしていた。
  爺さんは、手ぬぐいを地面に置き、「今に、その手ぬぐいが蛇になる」と言った。
  爺さんは、笛を吹いて、ぐるぐる回り出した。
  手ぬぐいは一向に動かなかった。

  爺さんは、手ぬぐいを箱の中にいれ、「箱の中で蛇になる」と言いながら、柳の下を抜けて、細い道を真直ぐに降りていった。
  河の岸へ出て、爺さんはざぶざぶ河の中へ入り出した。

  だんだん腰から、胸の方まで水につかって見えなくなる。
  そうして顔も頭もまるで見えなくなってしまった。
  自分は、爺さんが向こう岸に上がった時に、蛇を見せるだろうと思って、たった一人いつまでも待っていた。
  けれども爺さんは、とうとう上がってこなかった。
  (大人は知りたいことを教えてくれないまま、いなくなる?)

第五夜
  大将は敵に捕まえられたが、殺される前に一目、思っている女に会いたいと言った。
  敵の大将は、夜が明けて鶏が鳴くまでに女が来るのであれば、合わせてやろうと言った。
  女は馬に乗って駆け付けようとした。

  しかし、真っ暗な道のそばで、コケコッコウという鳥の声が聞こえた。
  馬は前脚のひづめを堅い岩の上にはっしと刻み込んでとまった。
  コケコッコウと鶏がもう一声鳴いた。
  女はアッと言って、馬とともにまともに前へのめった。
  岩の下は深い淵であった。
  鶏の鳴くマネをしたのはあまのじゃくである。
  (死ぬ前に愛し合う二人が対面するとことができるという感動的な話をぶち壊すのが、アマノジャクの本領)
  
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「空を取り戻した日」 [海外文学]

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 著者はカナダの作家、ミシェル・ブリューレさん。 主婦の友社、2005年刊。

 ブラジルのリオデジャネイロで、両親を亡くしたホームレスの少年の話。
 
 生まれ育だったのは、リオデジャネイロのはずれ、掘立小屋の立ち並ぶ貧しい地区。
 かあさんと二人で暮らしていた。
 12歳の時、町が洪水に襲われ、段ボールで作った二人の家は壊れてしまった。
 母さんは病気で寝込んでしまい、それからまもなく息をひきとった。

 住んでいた貧民街は、社会から締め出された者ばかりが集まっていた。 
 でも、そこからも追い出されてしまった。
 浮浪児として生きるしかない。
 ぼくはカタツムリみたいに、自分の家となった段ボール1枚を背負って貧民街を後にした。
 そこを離れるのに悔いはなかった。

 僕は去年、学校をやめなければならなかった。くやしくてたまらなかった。
 僕はクラスで一番勉強ができた。読むのも書くのも得意だった。
 先生たちから、あなたには才能があると言われた。
 でも、うちには本が一冊もなかった。
 学校で、夢中で本を読んでいると、世界も自分の人生も、一から作り直せるような気持になった。

 足を引きずるようにして歩き続けた。
 お腹がすきすぎて、胃とあたまがガンガンする。ひもじいのはつらい。
 ひとりっきりで生きて行くのに、12歳は早すぎるよ。

 道行く人に物乞いをした。「どうかお恵みを」、「どうか助けてください」
 ある人が、5レアル札(175円)をくれた。
 早速、マクドナルドに入り、ハンバーガーを食べた。
 すごい勢いで食べたけど、期待した割にはおいしくなかった。
 母さんが作ってくれた料理の方がずっとおいしかった。

 孤独ってっやつは、半端なくつらい。
 孤独だってことは、愛することも愛されることもないってことだ。
 母さん、どうして死んじゃったんだ。僕を一人にするなんてひどいよ。

 ロシア人の船乗りが、黒っぽいパンをくれた。こんなパンは初めてだ。
 かじってみると、おいしい! 
 ガラス瓶に入ったキャビアもくれた。ひどく塩辛くて、あまりおいしくなかった。

 5レアル札をくれた人が、新しい服と靴をくれた。
 それを着て、仕事を探しに職業安定所に行った。
 そこで会った若者が、自分が働いている工場に連れて行ってくれた。
 コンビーフを缶に詰める工場だった。
 月150レアル(5,250円)で働かせてくれることになった。
 
 職場は地獄そのものだった。
 騒音がひどく、工場の中は不潔で、暑さは外よりもひどかった。
 三度目の給料をもらうと、手持ちのお金は230レアルになった。
 工場を紹介してくれた青年と一緒に、アパートを借りに行った。
 持っているお金をすべて彼に預けた。
 彼はそれをもったまま、いなくなった。

 工場をやめ、また、物乞いを始めた。
 工場の仕事を続けていれば、きっと病気になっていた。
 何も持っていなければ、何も失うこともないんだ。
 しかし、ようやく友達ができたと思ったのに、裏切られたことがつらい。
 ひどく貧しい者どうし、本当の友達になれると思ったのだ。

 日本食レストランで「求人」の張り紙が出ていたので、入って、働かせてもらえませんか、と尋ねた。
 気の毒だが、今朝、決まってしまったという返事だった。
 だが、そこに居たおじいさんが、巻ずしをごちそうしてくれた。
 それはとてもおいしかった。
 そのおじいさんは、自分が日本からブラジルに来たいきさつを話してくれた。

 5レアル札や衣服と靴をくれたひとが、病気の自分の母親の面倒をみてもらうために、ぼくをその人の家に住まわせてくれることになった。
 守衛がいる大きな家だった。食べ物を腹いっぱい食べさせてくれた。
 そのお母さんにも気に入ってもらえそうだった。


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マンモスの絶滅 [科学]

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  *「マンモス」に拠る。
   (著者は福田正巳さん。誠文堂新光社、2017年7月刊。)

1 マンモスの分布
  マンモスはゾウの仲間で、アフリカを起源とし、ヨーロッパアジアシベリアさらには北米、中米へと広がった。
 
  北海道では、先にナウマンゾウが生息していたが、2万年前ごろに絶滅した。
  そのあとに、マンモスが大陸から渡ってきたとみられている。

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2 マンモスの発見
  シベリアでは、温暖化の影響で永久凍土の融解が進んでおり、数多くのマンモスの牙や、保存状態の良い全身の個体が発見されている。

3 マンモス絶滅の理由
(1)過剰狩猟説
   極北シベリアにいた先史モンゴロイドは、マンモスを食料にしていた。
   このため、マンモスを食べ尽くしてしまったのではないかという説。

   マンモスが生息していた地域の広さは、日本の8倍ほど。
   そこに8万頭が生息していた。50平方キロメートルに1頭の割合。
   先史モンゴロイドの同地域の人口は8,000人程度。
   このため、先史モンゴロイドがマンモスすべてを狩猟しつくしたとは考えにくい。

(2)気候変動説
   11,500年前に、寒冷と乾燥期が突然終了し、温暖化と積雪の急増が発生した。
   地上を覆う積雪量の増加と積雪の期間が長くなることは、マンモスにとってはエサとなる草を摂取できる量が激減することになる。

   しかし、今から4000年前という、比較的新しい時期まで、人間の背丈に近い小型のマンモスが生息していたことが分かってきた。
   これらの小型のマンモスは、体を小さくし、エサの摂取量を制限するという環境適応を行っていた。
   生き残ったこれらのマンモスは大陸から隔絶した島に住んでいたが、近親交配のために環境適応能力を失い絶滅に至ったと推定されている。

(3)ウィルス蔓延設
   見つかったマンモスの遺骸の中から、炭疽菌の一種とみられる病原菌が検出された。
   炭疽菌は草食ほ乳動物に蔓延し、いまでも中央アジアでは時として猛威を振るう。

   しかし、狭い範囲内であれば、このような病原体がほ乳動物を絶滅させることは可能かもしれないが、シベリアのような広大な地域での短期間感染による大量死は考えにくい。

(4)複合説
   実際には、以上の原因が複合して、マンモスを絶滅に至らしめたものとみられる。
   気候変動により餌が少なくなれば、シベリアで暮らしていた先史モンゴロイドにとっても食料不足が深刻になり、マンモスの狩猟にさらに力を入れることになる。
   また、気候変動や食料不足により、抵抗力が低下し、色々な病原菌に感染し発症したことが考えられる。

4 マンモスのクローン化
   凍結状態のマンモスのオスから精子をを取り出し、アフリカゾウの卵子に受精させ、マンモスのクローンを作り出そうという研究が進んでいる。
   
   永久凍土に埋まっている間に、宇宙から降り注いでいた宇宙線で、マンモスの遺伝子(DNA)の塩基配列は切断されている。
   このため、マンモスから抽出した遺伝子をそのままゾウの細胞に入れても、細胞分裂はうまく進行しない。
   そこで、ゲノム編集手法を応用して、ばらばらになったマンモスの遺伝子の塩基配列を修復して、マンモスを復元する。

   ただし、マンモスの復元については批判もある。
   ① 目的が純科学から逸脱し、ビジネス目的、つまり見世物になっている。
   ② 5年に1回しか排卵しない、貴重なゾウの卵子を数多く犠牲にして研究している。
     ゾウの絶滅の危機を加速させている。
   

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「明暗」 [日本文学]

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  夏目漱石の最期の作品。1916年5月から12月まで朝日新聞に連載。
  漱石の病状悪化により、連載は途中で途絶えたが、それでも文庫本で600ページの、漱石の作品では最も長いものになっている。
  未完の作品ではあるが、夫婦の内面の葛藤に鋭く切り込んでおり、漱石の傑作のひとつである。

  主人公は、津田とお延の夫婦。 結婚したのは半年前。
  東京で暮らしているが、出会ったのはそれぞれの実家がある京都
 
1 小説ポイント
 この小説のポイントは以下の3点。

 ① お金の問題
  津田は勤めに出ているが、毎月の給料では足らず、京都の父から仕送りを受け、それは賞与で返す約束になっていた。
  しかし、津田が賞与での返済を守らなかったため、父が毎月の仕送りを止めた、
  このため、津田とお延は足りない分をどうするか、悩む。

  周りの人たちからは、いろいろ言われる。
  お延がしている、津田からもらった指輪を問題にする人もいる。

 ② 津田とお延との関係
  お延は津田の気持ちが今ひとつわからない。
  お延は、津田がなにか大切なことを隠しているのではないかと疑う。

 ③ 津田の、清子に対する思い
  津田は、清子と一緒になるつもりでいたが、清子は1年前に津田と別れ、他の男性と結婚した。
  津田は、お延と結婚したが、清子への思いが頭の片隅から離れない。
  清子が、流産の体力回復のために温泉場に行っているのを聞き、津田は会いに行く。
  別れた時の清子の気持ちを確認し、清子への思いにけりをつけようとするため。

2 お延の気持ち
(1)津田は手前勝手
  自分は精一杯、朝夕尽くしている。
  しかし、夫の要求する犠牲には際限がない。夫が親切に親切を返してくれない。
 「夫というものは、ただ妻の情愛を吸い込むためにのみ生活する海綿に過ぎないのだろうか」

(2)結婚してしてしまった自分
  たいして年の違わない、結婚前の従妹が、いつまでも子供らしく、気苦労のなさそうに初々しく、処女として水の滴るばかりの姿に、軽い嫉妬を覚えた。

 「処女であったころ、自分にもかってこんなお嬢さんらしい時期があったろうか」

  お延は心の中で従妹に言った。
 「あなたは私より純潔です。あなたは今に、夫の愛をつなぐために、その貴い純潔な生地を失わなければならないのです。それだけの犠牲を払って夫のために尽くしてすら、夫はことによるとおなたにつらく当たるかも知れません。」

(3)叔父叔母夫婦を見て
  お延は今の津田に満足してはいなかった。
  しかし、未来の自分も、この叔母のように脂気が抜けてゆくだろうとは考えられなかった。
  女らしいところがなくなってしまったのに、まだ女としてこの世の中に生存するのは、真に恐ろしい生存であるとしか、若い彼女には見えなかった。

(4)結婚がうまくゆくという自信
  自分が津田を精一杯愛しうるという信念があった。
  同時に、津田から精一杯愛されうるという期待も安心もあった。

  結婚前、千里眼以上に彼の性質を見抜き得たとばかり考えていた彼女の自信は、結婚後今日に至る間に、太陽に黒い斑点ができるように、思い違い、勘違いの痕跡で、すでに汚れていた。

3 津田の生き方
(1)人生観
  物事に生ぬるく触れてゆく、微笑して過ぎる、なんにも執着しない、のんきに、ずぼらに、淡白に、鷹揚に、善良に、世の中を歩いてゆく。

(2)お延から見た津田
  腹の奥で相手を下に見る冷やかさがあった。
  自分の手に余るあるものが潜んでいると思った。
  容易におこらない人であった。

(3)お金に関する見栄
  自分をなるべく高くお延から評価させるために、父の財産を実際よりはるかよけいな額に見積もったところを、彼女に向かって吹聴した。
  必要な場合は、いくらでも父から補助を仰ぐことができる、月々の支出に困る憂いはない、と話した。
  このため、父からの送金が途絶え、お延から軽蔑されるのを深く恐れた。


(小説は、津田が温泉場で清子に会い、打ち解けてきたところで、余韻をもって終わっている。)

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