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 漱石「道草」 [日本文学]

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  漱石が50歳で亡くなる1年前の1915年に朝日新聞に連載した作品。
  執筆時期は「こころ」と「明暗」の間に位置する。
  
  この作品では、妻との微妙な関係や、お金をめぐる知り合いとの関係など、日常誰にでも起こりうる問題を淡々と描いている。

  漱石が実生活での妻の鏡子との関係がベースにあるのは間違いないが、現実の夫婦関係の難しさを描き、深く考えさせるとともに共感をも感じるものとなっている。
  妻の鏡子に対する、漱石のお詫びの気持ちも含められているような気もする。

1 主人公の健三(36歳)と妻の御住(おすみ)(20代後半)との関係
(1)それぞれ欠点があり、お互いに理解しえない部分も多いが、自分の考えを変えずに暮らしている。口喧嘩がさらに悪化することはない。

   機嫌のよくない時は細君に話さないのが彼の癖であった。細君も黙っている夫に対しては、用事のほか決して口を利かない女であった。
  (健三は教師で、準備のため)その日その日の仕事に追われていた。始終机の前にこびりついていた。
   人としての彼は孤独に陥らなければならなかった。彼は親類から変人扱いにされていた。

  (妻の御住にとって)夫の態度は決して気持ちの良いものではなかった。なぜもう少し打ち解けてくれないものかという気が、絶えず彼女の胸の奥に働いた。

   彼らは顔さえ見れば自然何か言いたくなるような仲のいい夫婦でもなかった。それだけの親しみを表すには、お互いがお互いにとってあまりに陳腐過ぎた。

   妻は言う。
   「あなたの神経は近頃よっぽど変ね。あなたは誰も何もしないのに、自分一人で苦しんでいらっしゃるんだから仕方がない。」
   二人は互いに徹底するまで話し合うことのついにできない男女のような気がした。

   不愉快な場面の後には大抵仲裁者としての自然が二人の間に入ってきた。二人はいつとなく普通の夫婦の利くような口を利き出した。けれどもある時の自然は全くの傍観者に過ぎなかった。夫婦はどこまで行っても背中合わせのままで暮らした。

   彼女の心の鏡に映る神経質な夫の影は、いつも度胸のない偏屈な男であった。

   ゴムひものように弾力性のある二人の間柄には、ときにより日によって多少の伸縮があった。非常に緊張していつ切れるか分からないほどに行き詰まったかと思うと、それがまた自然の勢いでそろそろ元に戻ってきた。

   夫婦に関する考えの違いが衝突の底にあった。
   健三は、学問をしたにもかかわらず、「妻は夫に従属すべきものだ」という古い考えを持っていた。
   御住は形式的な昔風の倫理観にとらわれるほど厳重な家庭で育たなかった。
  「単に夫という名前がついているからというだけの意味で、その人を尊敬しなくてはならないと強いられても自分にはできない。もし尊敬を受けたければ、受けられるだけの実質を持った人間になって自分の前に出てくるがよい。」

2 お金をめぐる知り合いとの関係
   健三は決してお金に余裕があるわけではなく、妻は質屋に自分の着物を預けてお金を工面することもある。しかし、周りの人間はお金に困り、健三を頼りにする。
   
   以前から、健三は結婚している姉に毎月なにがしかの金を渡している。
   また、年老いた養父と養母がそれぞれ、お金の無心に来た都度、いくらかの金を渡した。
   妻の御住は、それに対し不満を持ちつつも、面と向かって文句を言うことはない。

3 人間模様
(1)御住の父は、官職にあったが、辞任に追い込まれ、困窮化している。

(2)姉の夫は宿直が多く、勤め先の近所に女を囲っているといううわさもある。妻が酷い喘息の発作に苦しめられても意に介さない。彼は30年近くも一緒に暮らしてきた彼の妻に、ただの一つも優しい言葉をかけたためしのない男であった。それでも、姉はその夫を疑うことはしなかった。

(3)兄の長太郎は肋膜を患っている。兄は免職にはならずに済んでいるが、過去の人であった。華やかな前途はもう彼の前に横たわっていなかった。

(4)健三は、自ら健康を損ないつつあると確かに心得ながら、それをどうすることもできない境遇に置かれた。
   「俺のは黙ってなし崩しに自殺するのだ。気の毒だと言ってくれるものは一人もありゃしない。」

4 片付かない
    養父からのお金の無心に対して、百円(健三の月収以上の金額)を渡し、「今後一切の関係を絶つ」という証文を入れさせた。

    妻は「安心よ。すっかり片付いちゃったんですもの」と言った。
    しかし、健三は言う。
    「まだなかなか片付きゃしないよ。片付いたのはうわべだけじゃないか。世の中に片付くものなんてものは殆どありゃしない。一編起ったものはいつまでも続くのさ。ただ、色々な形に変わるから人にも自分にも分からなくなるだけの事さ」

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