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「アスベスト 広がる被害」 [現代社会]

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  岩波新書の一冊。2011年発行。著者は毎日新聞社の大島英利さん。

1 アスベストは断熱性や耐久性に優れた鉱物で、工業製品や建築用資材の材料として幅広く使用されてきた。しかし、その細かい繊維状の物質が肺に入ると、肺がんや中皮腫というアスベストに特有の悪性腫瘍を引き起こす。発見時にはすでに手遅れのことが多く、死亡率は高い。平均で40年の潜伏期間を経て発症する。

2 日本では、戦前は軍艦などの軍需用として使われ、戦後は建築資材のほか様々な用途に使われた。ほぼ全面的に使用禁止となったのは2011年。1970年ごろから1990年ごろにかけてアスベストの使用量が最も多くなっている。

3 中皮腫による死亡者は次第に増加しており、近年では年間1,500人ほど。アスベストを原因とする肺がんによる死亡者も同数以上いるとみられており、合わせると年間3,000人以上がアスベストにより亡くなっている。被爆から発症まで約40年のタイムラグがあるため、死亡者数は今後とも増え、2030年には中皮腫で年間4,000人、肺がんを合わせると年間1万人の方が亡くなるとの予測が出されている。

4 被害者は、アスベスト紡績業、建設業、鉄道を含む運送業、造船業などの従事者のほか、工場周辺に住んでいる人にも及んでいる。また、アスベストのほこりがついた衣服を払い落とす際に吸い込んでしまった家族も発症している。耐火材として壁や天井にアスベストを吹き付けていることも多く、年数を経てそれが剥がれ落ち、吸い込んでしまうこともある。幼稚園や学校もアスベストが剥がれ落ちる例がみられる。

5 欧米では1960年代からアスベストの危険性が指摘されていた。アメリカでは1973年に吹き付けアスベストの使用が禁止になった。ヨーロッパでは1980年代から1990年代にかけて多くの国でアスベストの使用が全面禁止となった。こうした欧米の禁止の動きに対して、日本は約20年遅れた。行政の怠慢と言わざるを得ない。欧米と同様にアスベストの使用を禁止していれば、死亡者数の今後の増加を避けることが出来たはずである。

6 今後は、老朽建物を解体する際にアスベストの粉塵が周辺に飛散するリスクが懸念されている。法律上は、飛散しないように処理手順が決められているが、順守していない解体業者も多いと言われている。また、大規模地震で建物が損傷し、アスベストの粉塵が飛散する事例が起きている。しかし、大規模災害の混乱時には、被害がすぐには見えないアスベスト被爆については行政の対応がどうしても後回しになりがちとなる。早めの対応準備が必要であるが、予想される首都直下型地震に対しても準備は進んでいない。

<アスベスト>
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「キリスト教は邪教です!」 [宗教]

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  講談社+α新書の1冊として2005年に出版された本で、ドイツの哲学者、ニーチェが1888年に書いた「アンチクリストーキリスト教批判の試み」をわかりやすく翻訳したもの。

  ニーチェは、自分の「力の意志」に従い気高く生き、生きることに憶病になってはならない、豊かに生きることを恐れたり、罪悪感を抱いたりしてはならない、たとえどんなことが起こっても自分の人生を愛するといった現実を肯定して生きることを主張し、神の基準に自分の人生を制約されるようなキリスト教的考えを徹底的に批判した。

1 キリスト教の特徴
 A 「神」「霊魂」「自我」「自由意志」などといった。ありもしないものを本当に存在するかのようにした。
 B 「罪」「救い」「神の恵み」「罰」「罪の許し」などといった空想的な物語を作った。
 C 「悔い改め」「良心の呵責」「悪魔の誘惑」「最後の審判」といった芝居の世界の話を現実の世界に持ち込んで心理学をゆがめた。

2 仏教の良いところ
 A 暖かい土地で、上流階級や知識階級から生まれた。心の晴れやかさ、静けさ、無欲といったものが最高の目標になる。。
 B 客観的に冷静に考える伝統を持っている。「神」という考えはない。現実的に世の中を見ている。
 C 善や悪というものから遠く離れた場所に存在している。心を平静にする、または晴れやかにする想念だけを求めた。たとえ考え方が違う人がいても攻撃しようとはしない。

3 キリスト教の問題点
 A 最下層民の宗教。負けた者や押さえつけられてきた者たちの不満がその土台となっている。
 B 異なった文化を認めようとしない。憎み、徹底的に迫害する。野蛮人を支配するために、野蛮な考えや価値観が必要だった。
 C 人生をよりよく生きること、優秀であること、権力、美、自分を信じること、こういった大切なものを否定。
 Ⅾ 僧侶たちは実権を握るために「神の意志」という仕組みを作り出した。
  ア 人間がするべきこと、してはならないことは神の意志によって決められている。
  イ 民族や個人の価値が、神に従うかどうかという基準によって測られ、民族や個人の運命が、神に従うかどうかによって、罰せられたり救われたりする。
 E 僧侶は、健康な人たちの精神を食いつぶして生きている寄生虫。僧侶のような組織を持つ社会では「罪」というものが必ず必要になる。僧侶たちは「神は悔い改めるものを許す」といって、「罪」を利用して力を振るう。
 F パウロが造ったキリスト教にはイエスの大切な教えは何も残っていない。パウロはイエスが復活したというデマを流した。「不死」という大ウソは人間の本能の中の理性を破壊する。さらに、「人間の魂は死なないから、みんな平等で、それぞれの救いこそ重要だ」ということになる。

5 新約聖書の暴言集
 A 「私を信じるこれらの小さい者の一人をつまずかせるものは、首にひき臼をかけられ海に投げ込まれた方が、はるかによい」
 B 「あなたの片目が罪を犯させるとしたら、それを抜き出してしまいなさい。両目が揃ったままで地獄に投げ入れられるよりは、片目になって神の国に入る方がよい」
 C 「自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたたちにどんな報いがあろうか」

「北京レポート 腐食する中国経済」 [現代社会]

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  著者の大越匡洋さんは日本経済新聞の記者。2016年4月に4年間の北京駐在を終え、この本をまとめた。
  中国経済の問題点を指摘する。

1 中国共産党の一党支配という強大な支配の体制は腐敗に結びつきやすく、内部に抱える矛盾や課題の克服は容易ではない。多数の政党による選挙や自由な報道を欠き、権力に対するチェックが働きにくい。中国指導部は目先の景気を下支えする力量はあるが、中長期にわたって安定成長を保てるかどうかは疑問。

2 中国ではそれぞれの政府部門が手持ちの土地にマンションを建て、職員に格安で売る仕組みがある。国有企業などからタダ同然で住宅を分け与えられた上海や北京の人々は、大規模な開発ラッシュに伴う住宅価格の上昇の恩恵を浴びて、一気に富を得た。しかし、内陸部の住民はそうした恩恵の良くすることも少なく、貧富の差は拡大した。

3 中国政府は、リーマンショックによる経済の落ち込みに対して4兆元(70兆円)の経済対策を実施して、経済を急回復させたが、今、その後遺症に苦しめられている。2016年の経済運営方針に、以下の四つの過剰の解決に取り組むことが盛り込まれた。
  ① 製造業の過剰設備
  ② 積みあがった住宅在庫
  ③ 地方政府などの借金
  ④ 企業の高コスト

4 地方政府や党の幹部は全国的な人事の一環として数年で交代するため、短い任期の間に必要以上に不動産開発を進めるなどして実績となる成長率をかさ上げする傾向が強かった。これも過剰設備や過剰な住宅在庫を積み上げた要因のひとつ。

5 個人も資金運用の失敗で苦しんでいる。不動産会社は年20~30%の高金利で資金を集め、開発投資に回していた。不動産投資に沸き住宅価格は上昇したが、それから一転、住宅の供給過剰が重荷となり、価格下落の波が襲った。マンション建設の停止が相次ぎ、高利回りにひかれて住民が投じた資金は帰ってくる当てがなくなった。

6 中国では、国有銀行は国有企業や地方政府に融資を偏らせる。個人や中小企業は相手にしてもらえないので「民間金融」に頼る。個人も海外の株式などへの投資が禁じられ、資産運用の手段が乏しく、中小企業へ直接、資金を投ずることになった。地道な技術開発よりも手っ取り早い金もうけに走ったり、リスク度外視の投機をいとわなかったりする中国人の性格が災いしている。

7 なお、中国で日本の今に興味を持ち、知ろうとする若者が増えている。しかし、日本では中国の今を知ろうとする若者は少ない。中国の若者にとって日本の魅力は、匠の技や東洋と西洋の文化の交差点であるところなどだ、

メキシコとの国境の壁の建設 [インターネット情報]

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 トランプ大統領は不法移民対策として国境の壁建設を進める大統領令に署名し、メキシコに建設費用を支払わせる考えを表明した。もし、メキシコが支払いを拒否すれば、メキシコからのすべての輸入品に20%の関税を課すという。この問題は今後、どのように展開するのであろうか。

1 アメリカとメキシコの緊密な経済関係
 A 1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)により、多くの品目の関税が撤廃または引き下げられ、両国間の貿易関係は緊密度を増した。

 B 2015年の貿易額を見ると、アメリカからメキシコへの輸出は2,402億ドル(27兆円)、メキシコからの輸入は2,940億ドル(33兆円)となっている。アメリカにとってメキシコはカナダ、EUに次いで3番目に重要な輸出先である。一方、メキシコからの輸入額は中国、EU、カナダについで4番目である。貿易赤字ではメキシコは538億ドルで5番目である(中国3,430億ドル、EU1,420億ドル、ドイツ718億ドル、日本671億ドル)。

 C このようにアメリカにとってメキシコは重要な輸出先でもあり、貿易赤字額もさほど多くはない。このような重要な国に対して、トランプ大統領はこれまでの歴史的な経緯を無視して、一方的に高い関税をかけて貿易関係さらにはメキシコの経済を破壊しようとしている。

 D なお、アメリカからメキシコへの直接投資は2014年で1,078億ドル(12兆円)であるのに対し、メキシコからアメリカへの直接投資は177億ドル(2兆円)にしか過ぎない。

2 メキシコとの国境に壁を作ることの困難性
 (ワシントン ポスト紙電子版による)
 A 地形が複雑で、壁の建設が容易ではない。

 B メキシコとの国境のうち、テキサス州の部分はその多くが私有地。壁の建設を強行すると、アメリカ政府は多くの訴訟問題を抱えることになる。

 C 国境が川で区切られている場合、現在は、その北側に川から離れてフェンスが設置されている。しかし、フェンスと川の間にアメリカ人が住んだり、ゴルフ場が出来たりしている。フェンスであれば行き来に問題はないが、壁ができてしまうと居住やゴルフ場の利用に適さなくなる。

 D いくら高い壁を建設しても常時監視しなければ意味がない。3,200㎞にわたる国境の監視は相当の費用を要する。

 E メキシコからだけではなく、グアテマラやホンジュラスなど中米の紛争国からの難民もメキシコとアメリカとの間の国境を通過してアメリカへ押し寄せている。こうした難民は命がけであり、壁を建設してもその流れを止めるのは難しい。

<中米からの難民>
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「昭和天皇・マッカーサー会見」 [昭和史]

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  岩波現代文庫の一冊。著者は国際関係論が専門の豊下楢彦さん。

1 この本では、昭和天皇について以下の点を浮き彫りにしている。
  A 戦前、戦中において、自ら情報を集め、重要な判断を下していた。
  B 戦後、以下のことを心配して、なりふり構わず動いた。
    ① 戦犯として訴追されるのではないか
    ② 新しい憲法で、天皇制が無くなるのではないか
  C 新憲法により「象徴」となった後も、アメリカに対して米軍駐留の継続や安保体制の確立を働きかけるといった、憲法の規定を逸脱した政治的な活動を行った。

2 昭和天皇は、内心では戦争開始に反対であり、終戦の際も軍部が反対する中でポツダム宣言受諾の聖断を下したといった平和主義者的なイメージがある。しかし、実際には、戦後に昭和天皇の発言をまとめた「昭和天皇独白録」には戦争への主体的な関与という、自身の戦争責任を論証するような材料がたくさん出てきている。

3 終戦後、昭和天皇は戦犯として訴追されることや、天皇制が廃止されることを恐れ、色々なことを行った。
 A 以下のような自己弁護の主張を作り上げるとともに、すべての責任を東条首相に押しつけた。戦中は東条首相を厚く信頼していたのだが。
  ア 自分は「立憲君主」として行動することに一貫して勤め、内閣や統帥部で決定した政策や見解に天皇個人として異論があっても裁可し、拒否権は使わないことにしていた。自身は開戦に反対だったけれども、政府と統帥部との一致した意見は認めねばならぬと思った。
  イ 二・二六事件の討伐命令とポツダム宣言受諾の決断の2回だけは、内閣などの政府機関が決断を下せぬ状況にあったから、自らが決断しなければならなかった。
  
 B アメリカ側との面談に加え、敵国であった英国王へ嘆願書めいた手紙まで送った。
     1945.9.25 ニューヨーク・タイムズ特派員と面談
        9.27 マッカーサーと会談
     1946.1.29 英国王ジョージ六世への親書

4 昭和天皇はその後も、アメリカ側と面談し、米軍駐留の継続や安保体制の確立という自分の考えを伝えた。その背景には、ソ連による侵略や共産主義者による政権奪取を極端に恐れていたことがあった。
 A マッカーサーとの会見は11回、その後任のリッジウェイとの会談は7回に及んだ。
 B 1950年6月に、吉田首相が米軍への基地提供に反対との考えを表明したのに対し、昭和天皇は国務長官ダレスに対する直接の文書で、現職の首相の安全保障に関する態度表明を明確に批判し、それに代わる方向性(米軍駐留維持)を提起した。

 * 本書には出ていないが、1975年の日本記者クラブでの会見で、昭和天皇は記者からの質問に対し、以下のような無責任な、反省の意識の全くない回答をして関係者を驚かせた。
   A 自らの戦争責任に関する質問に対し
   「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしていないのでよくわかりませんから、そういう問題についてはお答えが出来かねます」
   B 広島への原爆投下に関する質問に対して
   「どうも、広島市民に対しては気の毒であるが、やむをえないことと私は思っています」

「寺田寅彦随筆集」 [日本文学]

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 寺田寅彦は物理学者で随筆家。夏目漱石が熊本五高で教師を勤めていた時の生徒で、師弟関係は漱石が亡くなるまで続いた。漱石に最も親しく接した門弟の一人。自然科学はもちろん、文学、俳句、映画など幅広い分野に関心を持っていた。その随筆は、科学者的な鋭さとともに、文学に対する造詣に裏打ちされた温かみのあるものとなっている。
 「寺田寅彦随筆集」は岩波文庫(全5巻)で読むことができる。そのいくつかの一部をひろってみると・・・

1 「科学者と芸術家」
   科学者と芸術家の生命とするところは創作である。他人の芸術の模倣は自分の芸術でないと同様に、他人の研究を繰り返すのみでは科学者の研究ではない。科学者の研究の目的物は自然現象であってその中に何らかの未知の事実を発見し、未発の新見解を見出そうとするするのである。芸術家の使命は多様であろうが、その中には広い意味における天然の事象に対する見方とその表現方法において、何らかの新しいものを求めようとするのは疑いもないことである。

2 「相対性原理側面観」
   一つの学説を理解するためには、その短所を認めることが必要であると同時に、そのためにせっかくの長所を見逃してはならない。少なくても相対性原理は、たとえいかなる不備の点が今後発見され、またたとえいかなる実験的事実がこの説に不利なように見えても、それがために根本的に否定されうべき性質ものではない。

3 「夏目漱石先生の追憶」
   先生からは色々のものを教えられた。自然の美しさを自分自身の目で発見することを教わった。人間の心の中の真なるものと偽なるものとを見分け、そうして真なるものを愛し、偽なるものを憎むべきことを教えられた。いろいろな不幸のために心が重くなった時に、先生に会って話をしていると心の重荷がいつのまにか軽くなっていた。先生というものの存在そのものが心の糧となり医薬となるのであった。

4 「科学者とあたま」
   頭のいい人は批評家に適するが行為の人にはなりにくい。すべての行為には危険が伴うからである。けがを恐れる人は大工にはなれない。失敗をこわがる人は科学者にはなれない。頭がよくて、そうして自分を頭がいいと思い利口だと思う人は先生にはなれても科学者にはなれない。人間の頭の力の限界を自覚して大自然の前に愚かな赤裸の自分を投げだし、そうしてただ大自然の直接の教えにのみ傾聴す覚悟があって、初めて科学者にはなれるのである。

5 「天災と国防」
   文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増す。文明が進むに従って人間は次第に自然を征服しようとする野心を生じた。そうして、重力に逆らい、風圧水力に抗するようないろいろな造営物を作った。そうしてあっぱれ自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のように、自然が暴れだして高楼を倒壊せしめ堤防を崩壊させて人命を危うくし財産を滅ぼす。


「日本宗教史」 [宗教]

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  岩波新書の一冊。著者は末木文美士さん(東京大学名誉教授、日本思想史)。
  古代からの現代に至る、日本の宗教の流れを概説している。

1 仏教の浸透と神々(古代)
 A 古事記は、8世紀中ごろに、天皇支配の正当性を裏付けるものとして神話を改変あるは創作して作られた。アマテラスが最高神として天皇を守護するという発想は、仏が護法の王を守護するという構造と近似しており、アマテラスの神話は仏教からの影響がうかがわれる。伝えられている記紀神話は仏教の影響を受けて作られたものであり、それ以前の土着のものそのままではない
 B 伝来した仏教は神祇信仰と密接に関係し、神は迷える存在であり仏の救済を必要とするという考え方や、神は実は仏が衆生救済のために姿を変えて現れたものだという考え方が生まれた。
 C 仏教では密教の流れをくむ最澄の真言宗や空海の天台宗が比叡山や高野山に本拠を得て発展した。また、神祇信仰、陰陽道、山岳信仰などが盛んになった。

2 神仏論の展開(中世)
 A 鎌倉時代には、法然、親鸞、明恵、日蓮、栄西、道元など優れた仏教思想家が現れ、仏教が民衆に広がる動きを見せた。
 B 仏が本来の姿で、神は仏が仮に現れた姿であるとする本地垂迹説が優勢であったが、鎌倉時代の終わりごろから、それまでの仏教の絶対的な優位が崩れ、神祇信仰が神道として次第に確立してくる。さらに、モンゴルの来寇を契機にナショナリズムの機運が興り、日本優越的な思想が形成されるようになった。

3 世俗と宗教(近世)
 A キリスト教は、唯一神による天地創造や帰依しなければ来世において救済されないということなどが基本であり、神国、仏国であるがゆえに保たれている日本社会の秩序を破壊するものとして禁止された。
 B 仏教は、檀家制度という形で支配体制の一翼を担うことになり、また、葬式仏教という独自の形態を定着させた。
 C この時代、様々な神仏が巧みな宣伝と庶民の願望との合致により繁盛し、さらに巡礼や出開帳など、庶民の信仰は多様な形態をとった。宗教は衰えるどころか、とりわけ商人や豪農などで新しい宗教が生まれ、中世までの宗教が専門的な宗教者により与えられていたのとは異なっている。
 D 江戸時代後半になって、他国の宗教・倫理を探求して救いを求めるよりは、自国の古典に拠り所を求めるという国学がクローズアップされるようになった。本居宣長は「古事記」を再評価し、絶対的な聖典とすることによって神話を一元化し、それのみによってきわめてストレートな形で天皇の系譜の絶対性を打ち立てた。欧米列強の開国圧力とともに、天皇による祭政一致により西洋諸国の侵略に対する防衛を図るという尊王攘夷のイデオロギー的基盤となった。

4 近代化と宗教(近代)
 A 明治維新政府は、復古神道に基づく祭政一致の天皇制を国家体制の骨格とし、天皇の神格化と神道の国教化を図った。同時に、仏教については、神仏分離と廃仏毀釈により体制の枠外へ放逐することになった。
 B 「万世一系」の天皇を頂点とする日本の国体という観念は、1945年の敗戦まで統治のイデオロギーとして全国民に強制された。

     
* 宗教に関して以下のような点に関心があります。
1 日本人の考える「神」と欧米人の「GOD」とはイメージが違う。日本人の「神」は相当幅広くあいまい。古代から支配権力者は自らを神格化して、権威づけようとした。
2 日本人は面倒な教義を嫌う。拝むだけでご利益があるという方を好む。場合に応じて、教会、神社、お寺を使い分ける。日本人は儀式としては宗教を利用するが、教義にはほとんど関心がない。これが「無宗教」になるのかどうか。
3 現在の天皇制は宗教ではないのだろうか。日本的な意味合いでは「宗教」に該当するとは言えないだろうか。天皇制は伊勢神宮の内宮とリンクするものであり、旧来の儀式を守ってもいる。たとえ「象徴」ということであっても、それを全国民に強制することは憲法が保障する信仰の自由に反するような気がしないでもない。 あるいは、教会、神社、お寺を使い分けるのと同じように天皇制もひとつの「生活の一部」として利用しているということであろうか。

「新しい学力」 [教育]

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 著者は明治大学の齋藤孝さん。岩波新書の一冊。
 この本では、2020年に予定されている学習指導要領の内容の説明とそれに関する著者の考えが述べられている。

<新学習指導要領の内容>
1 日常生活や仕事などにおいて、各自が直面する課題を解決するために必要な思考力、表現力、判断力等を伸ばし育てる。
2 柔軟な思考力で課題に対応し、自らの発想によって意欲的に道を切り開く人材を育てる。
3 そのために「アクティブ・ラーニング」(活動的で積極的な意識をもって、他者と対話しながら自分の意見を形成していく)という学習方法を採用する。

<著者からの問題点指摘>
1 「アクティブ・ラーニング」を実践できる教師や指導者はいるのか。客観的な評価はありうるか。

2 これまでの伝統的な学校教育はだめだったのか?
 A 学力の国際比較では、日本は欧米主要国より上位にランキングされてきた。
 B これまでも生活綴り方などの国語教育、郷土学習を発展させた社会科教育、実験を重んじた理科教育など、アクティブ・ラーニングに類似した教育が行われてきた。
 C 基本的知識の習得を重視するこれまでの教育方針も大切だ。一方では基本的学問知識を習得し、もう一方では問題解決能力を鍛えていくことが重要で、これは既存の科目構成でも実現できる

3 現代の企業は「学習する組織」であることが求められる。本当に社会で求められる能力とは?
 A 体系的な知識内容を地道に身につける努力とエネルギー
 B 社会生活で求められる知識や技能を身につけようとする素直さ
 C 義務に対してしっかりと応え、新しい使命を遂行する真面目さ
 D 読書、特に古典を読むことが重要。

<私の意見>
1 これまでは授業についていけない生徒が多かった。小中学校から能力別の指導を行うべき。それにより能力のある生徒はより高いレベルの学習をすることができ、一方、能力の劣る生徒も基礎的な知識をよりしっかりと習得できるようになる。能力に応じたクラス分けやクラス内での個人指導を強めるべきだ。

2 教師のレベルアップを進めるべき。能力のある生徒を指導する教師と、能力の劣る生徒を指導する教師とを区分けしても良い。どちらも簡単ではなく、上下関係はない。また、社会人になっても学習を継続する意欲と困難に挑戦する気持ちは重要だが、多くの教師もそういう気持ちを持つべきだ。    

ピンインの開発者、周有光の死去 [インターネット情報]

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 <ニューヨークタイムス電子版の記事に拠る>

 ピンインの開発者である周有光さんが1月14日、北京の病院で亡くなった。111歳であった。ピンインとはアルファベットを使用した中国語の漢字の発音記号で、中国語で重要なイントネーションも表示できる。中国の文字は表意文字である漢字のみで、日本のひらがなやカタカナのような表音文字はない。しかも、中国では地域により同じ漢字でも発音がまるで違う。このままでは国家統一の障害になるということで、戦後の共産党政権は発音記号の必要性を痛感し、1955年、時の周恩来首相が直々に周有光さんに開発を依頼した。

 ピンインは1958年に完成し、公式に採用された。ピンインは中国の識字率向上に大きく貢献したと言われる。当時は人口の85%が漢字を読むことができなかったが、現在はそれが5%にまで低下している。外国人の中国語習得にも大いにピンインは役に立っている。さらに、開発時には想像もできなかったことであるが、今ではピンインはコンピューターのキーボードやスマートフォンの入力に不可欠なものとなっている。

 このように周有光さんは中国の発展に多大な貢献をしたが、かれは中国政府を批判する「最も高齢の反体制派」でもあって、このため中国国内ではあまり有名ではない。

 周有光さんは1906年に清朝政府の高官の子として生まれた。彼は中国の大学で経済学を学び、重慶市の銀行で働いた。ここで彼は周恩来の知己を得た。彼は働いてた銀行の代表としてニューヨークのアービングトラスト銀行で1946年から3年間、勤務した。1949年に中国へ帰国後、しばらくは大学で経済学を教えていたが、1955年に、言語学が周有光さんの趣味であることを知っていた周恩来首相から声がかかった。彼は、自分は言語学の素人であると抵抗したが、無駄だった。

 しかし、この作業に関与したことが、後で周有光さんの命を救うことになる。毛沢東は経済学者、特にアメリカ帰りの経済学者をひどく嫌った。大学で経済学を教えつ続けていたとしたら20年以上の刑務所入りは避けられなかったであろう。ただ、1966年から1976年まで荒れ狂った文化大革命の際には、周有光さんも2年間、地方で農作業に従事することを強いられた。

 彼はその後、40冊以上の書籍を出版した。また、西側のメディアに対して、毛沢東や鄧小平を批判する発言をしている。「中国人が金銭的に豊かになることよりは、民主主義につながる発展の方が重要だ」とも言っている。

<ピンイン表記>
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ボトックス [インターネット情報]

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  ボトックスは顔のしわをなくすためなどに使用される美容のための薬。成分は、毒性があるボツヌリス菌から抽出されるたんぱく質の一種。神経伝達物質「アセチルコリン」の伝わりを弱める働きがあり、それにより筋肉がリラックスした状態になり、しわが解消したりする。

  アメリカの週刊誌「タイム」の最近号が、このボトックスに関する記事を掲載している。

1 ボトックスはもともとアレン・スコットさんという眼科医が斜視を治療するために使用し始めた。彼は、ボトックスの効き目に自信を得て、1978年にボトックスを取り扱うための会社を設立した。1989年になって、斜視とまぶたの痙攣の治療のためということでFDA(米国食品医薬品局)の承認を得た。アラガン社という、目のケアに関する商品を販売していた売上570億円の会社がボトックスに目をつけ、1991年にアレン・スコットさんの会社を10億円で購入した。1991年のボトックスの売り上げは15億円であった。その後、ボトックスの売上は順調に増加し、2001年には350億円に達していた。さらに2002年に、目のまわりのしわを取るためという美容目的での使用がFDAにより承認されたことで、ボトックスの売り上げは飛躍した。2015年の売り上げは2800億円になっている。

2 ボトックスの使用はいまや美容目的に限らない。売り上げの半分以上は、様々な病気の治療のために使われている。FDAの承認も、斜視、まぶたの痙攣、しわの解消などに加え、首の痙攣、わきの下の多汗、腕や足の痙攣、偏頭痛、過活動ぼうこうなどに広がっている。

3 ボトックスの使用目的のこうした拡大は主に、臨床医が使用を始めたのがきっかけとなっている。アメリカでは、FDAが承認した薬を、その承認目的以外に医師が効果があると思って使用することは禁止されていない。FDAが承認した目的以外での使用例としては、手の冷え症、破傷風による口の開閉困難、背中の痛み、みつくちの傷、うつ病、早漏、パーキンソン病の症状、切れ痔、よだれ、歯ぎしり、心房細動などがある。

4 ボトックスを偏頭痛の治療に使用する場合は、頭や首など31か所に注射をして、3~6か月の間、効果が持続する。うつ病への適用については、少数の患者を対象とした研究結果ではでは効果ありとの結果もあるので、アラガン社はより多くの患者を対象とした治験を行い、FDAの承認取得を目指すとしている。もし、うつ病や心房細動への適用が認められれば、ボトックスの売り上げはさらに大きく増加すると見込まれている。

5 しかし、今のところボトックスがなぜ偏頭痛やうつ病の治療に効果があるのかというメカニズムは分かっていない。一つの説明としては「フェイシャル・フィードバック仮説」がある。顔の表情がよくなれば、その人の感情や精神状態が改善するというものである。

6 ボトックスは副作用も指摘されている。筋力の低下、目のかすみ、まぶたの垂れ下がりなどであるが、ボトックスは注射した箇所だけではなく、神経系や脳などに影響を与えるとの研究結果も出たりしている。

7 訴訟も起きている。脳性小児まひの患者へのボトックスの使用により、生命を脅かすような合併症が生じたとして、賠償金8億円という判決が出ている。また、FDA未承認の使用方法を製薬会社が医師に推奨することは出来ないとなっているが、これに違反したとして、2010年にアラガン社は690億円の罰金を支払っている。