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「暴政 20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」 [現代社会]

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  慶應義塾大学出版会、2017年7月刊。原書は2017年2月刊。
  著者は、イエール大学のティモシー・スナイダーさん。

  本書は、トランプ政権誕生を受けて、緊急出版されたもの。
  20世紀に現れたファシズムや共産主義などの暴政からの教訓を探る。

1 忖度(そんたく)による服従はするな
  多くの人が権力者の意向に沿って、深く考えもせず、権力者の気に入ることをした、
  ユダヤ人の迫害では、一般のドイツ人も略奪行為に加わり、それがナチスの権力基盤強化に貢献した。

2 組織や制度を守れ
  共産化したロシアやナチスドイツでは、いとも簡単に組織や制度が破壊され、一党独裁国家が成立した。
  多くの人が、そのようなことは出来ないだろうと決め込んでいた。

3 一党独裁国家に気をつけよ
  20世紀には、参政権を拡大し、民主制の定着が図られたが、第一次大戦後、いくつかの国で、選挙とクーデターとにより一党独裁となってしまった。
  選挙結果が有利なものとなったため、権力者はより大胆になり、自己のイデオロギーにより制度を変えていった。

4 シンボルに責任を持て
  ナチスが政権を獲得して以降、一般市民の多くがナチスを示すバッジをつけるようになった。
  また、ユダヤ人の商店にユダヤ人を示すマークを付け、排斥の対象にした。
  独裁者はこのようにして自分に従うものと排斥するものを明確にしていく。

5 職業倫理を忘れるな
  ナチス政権下で、多くの弁護士が占領地の圧制や、ユダヤ人の排斥に加わった。
  また、医師はユダヤ人などの人体実験に手を染めた。
  彼らは職業倫理を忘れ、その時の社会の雰囲気に飲まれていった。

6 準軍事組織には警戒せよ
  ナチのSA(突撃隊)は、もともとはヒトラーの政治集会で会場から政敵を排除する特別保安舞台だったが、その後、一般の人々に恐怖をまき散らし、またユダヤ人の排斥の先頭に立った。
  トランプは、私設保安部隊を設け、政治集会から反対者を排除した。

7 武器を携行するに際しては思慮深くあれ
  ドイツでは、ホロコーストのどの大規模なユダヤ人射殺作戦にも、ドイツ人の普通の警察官がかかわっていた。
  彼らの多くは命令を受け、弱虫とは思われたくなかったため、その命令に従った。
  命令を拒んだからといって、処罰されることはなかったのだが。

8 自分の意志を貫け
  第二次大戦中、多くの人が時代の風潮に流される中で、自分の意志を貫いた人もいた。
  大陸の多くの国がドイツとロシアの支配下になる中で、ヒトラーはイギリスに対し和睦の提案をしたが、イギリスのチャーチルはそれを拒否して戦争を続行し、アメリカの参戦も得て、ヨーロッパの解放につなげた。

9 自分の言葉を大切にしよう
  テレビやパソコンは止め、本を読むべき。
  テレビからは次から次へと映像が送られてきて、意味を咀嚼するのが難しくなる。
  私たちは視覚的な刺激で恍惚となり、言葉が私たちをすり抜けてしまう。

10 真実があるのを信ぜよ
  トランプは以下の方法で真実を消し去り、有権者が自分に盲従するように仕向けた。
  ① 実証できる事実を公然と敵意をむき出しにして否定し、作り事と嘘をあたかも事実であるかの如くに提示する。
  ② 競争相手に悪いレッテルをはり、それを繰り返し呪文のごとく唱え、相手の人格を貶める。
  ③ 有権者にとり魅力的な、しかし、相互に実行不可能な公約を平然と主張し、有権者の理性を押さえつける。
  ④ 筋の通らない、信仰といってよい信頼を有権者に強いる。

11 自分で調べよ
  大切なのは事実を調べ、見極める能力。
  トランプは、ジャーナリストを嫌い、選挙戦の集会からレポーターを締め出した。
  自分に賛同する有権者にも、新聞などのメディアを嫌い、正確性に欠けるツイッターなどのインターネットを利用するよう仕向けた。

12 アイコンタクトとちょっとした会話を怠るな
  周囲と接触を保ち、社会的なバリアを崩し、誰を信頼し誰を信頼してはならないかを理解するための方法。
  最も危険な時代に、信頼できる人たちを知っていることは最後の頼みの綱。

13 「リアル」な世界で政治を実践しよう
  「抗議」は最後は街中で行わなければならない。
  そのためには様々な背景を持った人たちが、それまではいたことのなかった集団の中に身を置かなければならない。

14 きちんとした私生活を持とう
  インターネットからプライバシーが盗み取られ、それがニュースとして伝えられる。
  競争相手を無力化するとともに、有権者はそういったニュースに惑わされ、「無秩序な群衆」に退化する。
  自分のコンピュータを攻撃から守ることが必要だ。

15 大義名分には寄付せよ
  私たちは、自分たちにとって意義のある活動に携わるべきだ。
  私たちが、こうした活動に誇りを抱き、他の人たちと知り合いになれるなら、民間ベースの社会活動に参加していることになる。
  また、賛同できる慈善活動を行っている組織に対する寄付も、そういった参加の一形態といえる。

16 他の国の仲間から学べ
  アメリカ人はもっと他の国で起きていることに関心を持つべきだ。
  大統領選挙期間中にロシアにより仕掛けられたサイバー攻撃とフェイクニュースにより、トランプは勝利を得たが、こういったロシアの攻撃は2013年にはウクライナに対して行われていた。
  ウクライナは迅速に対処して効果をあげさせなかったが、アメリカではそういった攻撃が成果を挙げた。

17 危険な言葉には耳をそばだてよ
  権力者は非常時だと言って危機意識を煽る。
  そして、安全のために必要ということで、我々から自由を奪おうとする。

18 想定外のことが起きても平静さを保て
  テロ攻撃があった時、権力者はそれを利用して反対勢力を一掃しようとする。
  ヒトラーはドイツ国家議事堂の火事で、プーチンは連続ビル爆破事件で、権力をつかんだ。
  暴政は、何らかの非常時に姿を現す。

19 愛国者たれ
  トランプはナショナリストではあるが、以下のように愛国者ではない。
  ① 徴兵逃れをしてベトナムに行かなかった。
  ② 税金を納めていない。
  ③ カダフィ、アサド、プーチンなどの外国の独裁者を崇拝している。
  ④ ロシアにアメリカの大統領選挙に加担するよう訴えた。
  ⑤ ロシアとつながりのある人物を国務長官に任命した。

20 勇気をふりしぼれ
  仮に私たちの誰一人、自由のために死ぬ気概がなければ、私達全員が暴政の下で死ぬことになる。



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「中国では書けない中国の話」 [現代社会]

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 河出書房新社、2017年8月刊。
 著者は、ユイ・ホアさん。北京在住。
 中国で小説を発表するとともに、中国の現状に関する記事をニューヨークタイムスなど、欧米の新聞雑誌に寄稿している。
 本書は、それらの寄稿をまとめたもの。

1 陳情制度
  人々は司法を信用せず、問題があると国に陳情する。
  北京の国家陳情局は、陳情を受け付け、地方政府から人を読んで、陳情者を引き取らせる。
  国がこの陳情というシステムを残すのは、人々が過激な行動に出ないよう、不満のはけ口とするため。
  地方政府は自分のところから陳情者が出ることを恐れる。
  安定維持の名目のもとに、陳情しようとする者の足止めや勾留などを行う。

2 検閲制度
  ある小説が公然と出版販売されているのに、その本を基にした映画の上映が許可されないということがある。
  これは、書籍の場合、発行する出版社の社長が審査をするが、映画は国家電影局の役人の審査となるため。
  出版社は500社もあり、どこかの出版社がOKを出してくれる。
  それに、政治的にリスクのある本は人気があり、儲かる。
  国家電影局の役人は、無理してOKを出しても自分にプラスになることはない。

3 封建的なやり方
  民衆を手なずけるには、毛沢東が唾棄した封建的なやり方の方が効果がある。
  例えば、ある地方政府は都市開発のために一千個余りのお墓を一か所にまとめたが、それが洪水で流されてしまった。
  人々は激怒した。
  地方政府は、十数人の風水師を雇い、人々の説得にあたらせた。
  風水師は、怒りを鎮めるため「みんな金持ちになれる」と言った。
  中国では、水に触れれば金持ちになれるという俗信があり、みんな納得した。

  また、ある地方政府では購入した資材が近所の住民に盗まれる被害が続出した。
  住民は、政府の財産を取っても、盗みにはならないと考えている。
  そこでその地方政府は「寺院建設用」という立札を立て、盗みを防止した。
  人々は、寺院のものを盗むとバチが当たると思っている。

4 階級闘争
  毛沢東の時代は、資本家や地主がいなくなり、みんなが貧しく階級矛盾などなかったが、「絶対に階級闘争を忘れるな」と叫んでいた。
  一方、現在は貧富の差が激しく、また、役人の汚職が蔓延している。
  階級矛盾が存在する今の時代に、国は民衆の暴発を恐れ、「絶対に(階級)闘争を忘れろ」と叫んでいる。

5 歴史に対する反省
  日本政府の自国の歴史に対する態度は中国人を怒らせたが、中国政府の自国の歴史に対する態度にも、反省が必要だ。
  中国政府は、日本政府に対して、自国の侵略の歴史に対して正しく向き合わないと、日本はまた同じ道を歩むことになる、と警告する。
  しかし、中国政府も自国の文化大革命の歴史に正しく向き合わないと、我々もまた同じ道を歩む可能性がある。

6 汚職により得たお金
  中国では、マネーサプライが急増しているのにインフレがさほど進行していない。
  ある経済学者は、その理由として「マネーサプライの残高の50%は汚職官僚により現金で隠匿されている」ため、と言った。
  50%という数字が正しいかどうかは分からないが、中国の汚職官僚たちが隠匿して流通しない現金の額が驚異的なものになっていることは間違いない。

7 株式市場
  中国の株式市場では、株価が業績と関係なく暴騰し、また暴落する。
  暴落しても、国が救ってくれると投資家は考え、借金をして株を買う。
  ある企業は倒産した後も、株価は上昇を続けた。
  また、ある国有企業は赤字で給料も支払えない状態であったが、その国有企業に出資している地方政府は、高値の株式を売却して、その国有企業を支援した。

8 インターネットの検閲
  中国の検閲機関は、特定の文字が使用されているとその記事を発信できないようにする。
  例えば、天安門事件の日である「6月4日」。人々は、「5月35日」という言葉を使用して、検閲をすり抜ける。読む人は意味することを理解できる。
  また、「革命」という言葉は、「開花」という言葉で代替する。

  インターネット上で独自の思想を表明しようとするとき、人々は出来るだけ修辞法を使う。
  暗示、比喩、風刺、嘲笑、誇張、連想などを最大限利用する。

9 汚職
  不透明な政治の下での経済発展が大量の腐敗をもたらした時、政府は不適当なやり方で腐敗を退治している。
  だから、腐敗の退治と同時に、新たな腐敗が生まれてしまう。

  ある官僚が腐敗を理由に軟禁状態で取り調べを受け、事件にかかわった実業家も拘束された。
  すると、検察と関係の深い人物が拘置所に行き、実業家と面会し、財産を安く譲ってくれれば補色の道があると告げた。

  

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「男子劣化社会」 [現代社会]

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 著者はアメリカの心理学者、フィリップ・ジンバルドーとニキータ・クーロン。
 晶文社、2017年7月刊(原書は2015年刊)。

 インターネット時代において、先進国の共通の問題となっている男性若年層の病的な行動などの問題を解明する。

1 若い男性の劣化の症状
(1)学業成績の見劣り
  OECDの調査によると、男子は女子より成績が悪く、落第する生徒も多く、卒業試験の合格率も低い。
  2021年までに、アメリカでは学士号の58%、修士号の62%、博士号の54%が女性により取得されると予測されている。

(2)男子の失業者の増加
  OECD統計によると、20代後半から30代前半の男性平均失業率は、1970年の2%から2012年には9%にまで高まった。
  これは不況の影響もあるが、男子には新種の特権意識が一般化し始めていることが影響しているという。
  すなわち、親の家に住み、仕事や家事を一切せず、ただぶらぶらしても許されるという考えである。

(3)消極的で引っ込み思案な気質
  テクノロジーの発達により、様々なことが他の人と会話をせずに済ますことができるようになり、人との交流の仕方が分からない男子が増えている。
  特に異性との交流での失敗を恐れ、男同士のつながりを求める。
  日本では、男性がセックスに対して無関心になってきている。
  結婚しているカップルでさえセックスをしなくなってきている。

(4)ゲームのしすぎ
  男子は女子に比べ、はるかにゲームに没頭する時間が長い。 
  ゲームはいまや3~5歳の幼児にまで広がっている。

(5)超肥満
  成人の肥満の増加以上に思春期の子供の肥満が増加している。
  アメリカでは、肥満により兵役に適さない人が増えており、国家防衛上の問題となっている。
  また、男性は体重が増えると、体内のホルモンのレベルが下がり、人付き合いや性的な能力が驚異的に低下する。

(6)ポルノの見すぎ
  インターネットのポルノの過剰視聴は以下のような問題を引き起こす。
  ① 学業成績の低下
  ② セックスを愛情や親密さの伴わない、単なる体のパーツの身体的行為とみなしてしまう。
  ③ ポルノには虚構の部分があり、見た人に誤った劣等感を抱かせる。
  ④ コンドームなどを使用しないセックスを当たり前と考えてしまう。

(7)薬物療法や違法ドラッグへの依存
  刺激が強い薬物治療は、脳の側坐核と呼ばれる領域にダメージを与える。
  その結果、空腹だったり、性的興奮を覚えていたりしても、どうにかしようという活力がわかなくなる。
  子供たちには、1年の薬物投与であっても、性格を変えてしまう可能性がある。

  大麻も危険度が増してきている。
  大麻に含まれる精神活性成分(THC)は、1983年には4%以下であったが、2008年には10%以上になり、2018年には15~16%になると見込まれている。

2 劣化の原因
(1)父親不在
  未婚女性の出産や離婚の増加により、父親のない子供が増えている。
  シングルマザーは生きるのに忙しく、ゆっくり子どもと過ごす時間は少ない。

  また、両親のいさかいと離婚を目の当りにした子供は、男女関係に対する信頼を失う。
  適齢期になっても、長期にわたる一対一の恋愛からは得るものよりも失うものの方が多いと思ってしまう。
  恋愛とは、自由と自立を制限し、すぐにではなくても10年か20年後にはほぼ確実に破たんするもののために自分のゴールや情熱を犠牲にさせる何かなのだと。
  
(2)問題だらけの学校
  幼稚園などで何かを学ぶよう強いられた男児は、頭脳がまだ準備できていない状態であるため、無意識のうちに学ぶことが嫌いになる。
  就学開始時では、男児は女児に比べ、社会性や言語の面では未熟だ。
  じっと座っていることも苦手だ。
  しかし、小学校の授業の大半は言語をベースにしているため、男児は自分が読み書きは苦手だと誤解してしまう。
  小学校教師の多くは女性教師であるため、学習を女性的な作業と感じてしまう。

(3)環境の変化
  今の若者は、父や祖父の世代よりも生殖能力が落ちている。
  その最大の要因は、環境ホルモン(内分泌攪乱物質)である。
  環境ホルモンは、薬品、食品、プラスチックボトルなど様々なものに含まれる化学物質。

  肥満も環境ホルモンの影響を強めている。
  体内の脂肪量が多ければ多いほど、毒性物質をため込むスペースも大きくなる。

(4)興奮依存症
  ポルノやゲームが即座に与えてくれる喜びに比べると、女性やスポーツや学校といった他の活動は余りにまどろっこしい。
  ポルノやゲームにより緊迫したプレイのとりこになり、延々と続く楽しみを得ることができる。
  それ以外の活動に参加する意欲がほとんどなくなってしまう。

  また、ポルノやゲームは、高いレベルでの興奮を達成または維持するために新規のものを探し続ける。

3 解決法
(1)学校ができること
  ① 小学校の男性教師を増やす。
  ② 学校からジャンクフードを追放する。
    (イギリスではこうしたものが自動販売機で売られている)
  ③ 教師の質を高め、より興味の持てる授業を提供する。
  ④ 実用的な生活技能を身につけさせる。
  ⑤ 双方向性学習のために、最新テクノロジーを利用する。
  ⑥ 成績のインフレを止める。
    (評価の平均が上にシフトする傾向にあった)

(2)両親にできること
  ① デジタル系刺激のスイッチを切り、創造性のスイッチを入れる。
  ② 身の危険や、他の子供との関係における危うい状況を切り抜ける方法を学ばせる。
  ③ 達成の喜びを感じさせる。
  ④ 子供の将来の仕事とその準備について親子で話をする。
  ⑤ セックスなどタブーの話題に挑戦する。
  ⑥ 時間の管理方法を教える。

(3)男子自身にできること
  ① ポルノの視聴をきっぱり止める。
  ② ゲームに費やしている時間を減らす。
  ③ スポーツや音楽に取り組む。
  ④ 毎日小さなことをきちんとやる習慣を身につける。
  ⑤ 女友達を作る。



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現代中国の諸相 [現代社会]

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 *以下に拠る。
   「現代中国入門」 ちくま新書、2017年5月刊
    第3章の2「儒教復興」 中島隆博著
    第5章の1「対外政策」 毛利亜樹著 
    第5章の2「国防政策」 杉浦康之著

1 儒教復興
(1)近代中国では、中国の後進性や封建性を体現している儒教を排除して、近代化を進めなければいけないと考えられた。
   1919年に始まった五・四新文化運動で、儒教は批判の対象になった。
   儒教が見直されるようになったのは、1992年に鄧小平による改革開放政策への転換が起こってからである。

(2)儒教が見直されるようになったのはなぜか?
   一つの見方は、政治的な正統性を担保する重要な資源として儒教が容認されるようになった、ということである。
   毛沢東というカリスマを失う一方で、改革開放という資本主義的政策を導入するという状況で、社会主義だけでは正統性を保証するのに十分ではないとみられ、儒教の力を必要とした、という見方である。

(3)現代中国における儒教の復興は以下のような点での検討とともに、進むと考えられている。
  ① 前近代の儒教がそのまま復興しているわけではなく、近代の社会を前提にした儒教が求められている。
  
  ② 儒教の宗教的な内容がどのような意味合いで残るか、問われる。

  ③ 儒教という形での宗教と政治との結びつきにより、政治を宗教から分離するという世俗主義を問い直す。

(4)儒教には大勢順応的な面があるが、一方では、批判的な要素、現状を打破していくような力が備わっており、こうした面を再評価すべきとの考えも出てきている。

2 対外国防政策
(1)人民解放軍は、中国共産党の軍隊であり、国の軍隊ではない。
   党の軍隊ではなく、国家の軍隊にしようというという声は多くはない。

   1991年に旧ソ連でクーデターが起きた時、国家の軍隊であったソ連軍は中立を守った。
   このため、中国は軍隊が「党の軍隊」であることにこだわり続けている。

(2)しかし、「党の軍隊」であるため、人民解放軍は指揮命令系統で以下のような非効率性を有している。
  ① 各部隊の中に党委員会があり、重要方針をこの委員会の多数決で決めている。
  ② 部隊のトップは、司令官と政治将校の二名体制であり、両方が承認しなければ命令は実行されない。

(3)習近平は以下のような軍改革を進めている。
  ① 統合作戦の強化
     以下のような施策が打ち出された。
     A 中央軍事委員会の権限強化と習近平の軍に対する指揮権限の強化
     B 指揮階層の削減や指揮命令系統の明確化、簡素化
     C 陸軍中心主義の部分的な是正

  ② 軍官職業化
     賄賂による昇進が当たり前であったのを、軍隊の学校での成績や能力もとに昇進させるように変える。

  ③ 軍民協力の深化
     装備品の研究・開発における軍と民の協力を一層強化することが求められた。

(4)中国は以下のような主張をして、東アジアならびに東南アジアに脅威を与えている。
  ① 独自の海洋認識
    国際法では、領海は12海里までで、その外側の200海里までの大陸棚の部分は接続水域並びに排他的経済水域とされ、領海ではないが、資源開発等を行うことができるとされている。
    しかし、中国は、大陸棚部分は200海里を越えてすべて自国の領海であるとの主張をしている。
    排他的経済水域であれば、他国の艦船が通行できるが領海内ということであれば自由に通行は出来ず、トラブルの原因となる。

  ② 九段線
    中国は、南沙諸島を含む南シナ海をほとんど囲む、牛の舌とも呼ばれる「九段線」という線を引いて、権利を主張している。
    しかし、この線は独自の海洋認識でもってしても説明のつかないものである。
    勝手な主張をもとに、岩や暗礁を埋め立て、既成事実化しようとしている。

  ③ 太平洋の分割
    中国は、太平洋をハワイのあたりでアメリカと中国で分割して管轄しようと、アメリカに提案したことがあった。
    東アジアならびに東南アジアの全域を中国の支配下に置くという構想である。

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「危機の二十年」(その2) [現代社会]

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3 国際政治における道義
(1)道義の前提
  国際道義が存在するためには、以下のことが必要である。
  ① メンバー国が、国際共同体の利益を義務として推進しなければならないと認めること。
    (全体の利益が部分の利益に優先する)
  ② 普遍的な諸原則に拘束力があることを認めること。

(2)権力のヘゲモニー
  このようなことが必ずしも認められているわけではなく、実際には、国際的道義的秩序は権力のヘゲモニーに基礎をおいている。
  持たない国にとっては、それ自体一つの脅威である。
  このため、国際道義には持つ側の譲り合いや自己犠牲の要素を含んでいなければならない。
  こうした要素があるからこそ、権力のヘゲモニーは他のメンバー国にとっても我慢できるのである。

(3)戦争の性格
  道義の基準は、戦争が侵略的性格を帯びているにかそれとも防御的性格を帯びているのかということではなくて、追及されたり抵抗されたりしている変革がいかなる性質のものか、というところに置かれなければならない。
  
  造反がなくては、人類は停滞し、不正は改めがたい。
  戦争を始めることが常にそして無条件に間違っていると信じるのは難しい。

4 国際紛争の平和的解決
(1)権利の変更
   現行の権利を定期的に、あるいは不断に修正することは、必要なことである。
   戦争以外の手段によって国際社会に変更を加えることは、現代国際政治におけるもっとも死活的な問題である。
   その第一歩は、仲裁ないし司法手続きの袋小路から抜け出すことである。

(2)平和的変革
   国際政治にあって、必要かつ望ましい変革を戦争や革命を経ずに如何に成し遂げるか。
   平和的変革の目的は以下の二つに分けられる。
   ① 理にかなった不満を救済することによって、正義を打ち立てる。
   ② 革命や戦争を引き起こすほどに強くなるかもしれない諸勢力を満足させて平和を維持していく。

   労使の対立が、色々な形の調停や仲裁に委ねるシステムを進化させ、解決が図られてきたように、国際関係においても、不満足国家が平和的交渉によってその不満が救済される可能性はある。

   しかし、問題点は以下の通り。
   ① 当事国の犠牲でその変革がなされるという場合、当事国が強制手段なしに犠牲を受け入れるという保証はない。
   ② 紛争上の争点が、当事者間のバランスを公平にとって解決されるとは限らない。

   このため、実力の行使ないし威嚇が、重要な政治的変革を生み出す通常の方法となっている。

   平和的変革は以下の二つの妥協によってはじめて達成される。
   ① 正義についての共通感覚というユートピア的観念
   ② 変転する力の均衡に対する機械的な適応

   個々の政府の基盤は、その権威の基礎としての権力と、同時に被支配者の同意という道義的要素の両方から成り立っている。
   同じように、国際秩序が権力にだけ基づいて築かれるということはありえない。
   人々は、むき出しの権力には反抗する。
   いかなる国際秩序も、それ相当の一般的同意を前提とする。
   しかし、道義の果たす役割を過大視することもできない。

   権力はみずからに都合のよい道義を作るように機能する。
   強制することもある。

   しかし、新しい国際秩序や国際調和は、それぞれ一般に受け入れられる支配を基礎にして初めて築かれる。




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「危機の二十年」(その1) [現代社会]

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  岩波文庫の一冊、原著は1939年出版。
  E.H.カー(1892~1982)はイギリスの政治学者。
  第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期の国際政治を分析している。

1 ユートピアニズムとリアリズム
(1)19世紀のユートピアニズム
   以下のような考えに基づき、国家内ならびに国際間の平和と繁栄が得られるという考え。
   理想主義的に見えるが、結局は世界を支配している強い国が現状を維持することを支持する考え方となった。

  A 利益調和説
    個人は自らの利益を追求すれば、共同体の利益をもまた追及することになる。
    これは、自由放任主義や世界的自由貿易の正当化にもつながった。

  B ダーウィニズム
    強者が、弱者の犠牲(不適国家の消滅)のうえで生き残ることにより、社会が進化する。
  
  C 自由民主主義
    世論は、合理的に提起された問題については必ず正しい判断をするのだという信念に基づき成立する。
    これは、知識の普及により、すべての人が重要な課題について正しく理性を働かせることができるため、
    教育の普及によってこそ国際平和が実現されるということになる。

  D 共通利益としての平和
    国家それぞれの個別利益と一致する、世界利益としての平和が存在する。
    共同体成員それぞれの利益を犠牲にすることなく、共通利益が達成されるのであれば、あらゆる国際紛争は必然のものではなくなる。
    利益を慎重に均衡させることによって、すべての国に等しく好意的でどの国にも不利にならないようにする何らかの解決策がある。
    国家は、それぞれの独自のナショナリズムを発展させていけば、国際主義の目的を推進することができると信じた。


(2)リアリズムからの批判
   利益調和説やダーウィニズムは、持てる者の考え。
   利益調和は、不適者のアフリカ人やアジア人を生贄にして成立した。
   利益調和説は以下のような状況の下で成立していたが、今はそのような状況ではなくなってきている。
   ① 新しい市場がいつも手に入ったので、繁栄の拡大が生産者間の市場獲得競争を和らげることができた。
   ② 公正な分配を強調して、恵まれない階級の人々にも繁栄のなにがしかの分け前を与えることによって、階級問題を先延ばしにすることができた。

   自由民主主義の根底にある「世論の無謬性」については、世論が教養のある開明的な人々の意見から成り立っている間は妥当していたとしても、今や大衆が世論を形成するように変わってきており、必ずしも正しい判断を下すとはいえない。むしろ「多数の専制」の危険性が生じてきている。

   国際平和は、支配的列強にとって現状を維持することにつながる。
   しかし、現状打破を目論む不満足国家は戦争を挑発する。

   支配的諸国家は、国際的連帯と世界連合の主張により、世界を統制したいと考える。
   支配的国家集団に何としても押し入ろうとする国家は、支配的列強の国際主義に対抗してナショナリズムに訴える。

2 国際分野における権力による統治
(1)国際分野における権力構造
  権力は統治の不可欠の手段である。
  ある国または地域を国際的に統治する場合、実際には、統治に必要な権力を提供する国家による統治ということになる。

  例えば、パレスチナにおける政策は、そこで使用可能な軍事力の総量にかかっている。
  従って、委任統治委員会によって決められるのではなく、軍事力を提供するイギリス政府によって決定される。

  国際分野における政治権力は、密接に絡み合っている以下の三つの要素に由来する。
   ① 軍事力
   ② 経済力
   ③ 意見を支配する力

(2)軍事力
  軍事的手段が最高に重要である理由は、国際政治における最後の手段が戦争であることによる。
  ヒトラーはこのことを「その目的において戦う意思をもたない同盟は、無意味であり使い物にならない」という言葉で表した。

  戦争は、主要戦闘国すべてにおいて防御的ないし予防的性格を持つものである。
  最も頻繁に起こるのは、他国が軍事的に一層強くなるのを阻止するために行われる戦争である。
  将来の戦争で自国が一層不利な立場に立たないようにするため戦った。

  しかし、安全保障という目的のために始められた戦争は、たちまち攻撃的、利己主義的になる。
  第一次大戦に参加した連合国側諸国は当初この戦争を自衛戦争とみていたが、戦争が進むにつれて、彼らの戦争目的には敵国からの領土獲得も含まれるようになった。

(3)経済力
  ドイツのある軍人は、「戦争遂行の基礎は、主として諸国民の経済生活全般である」と述べている。
  第一次大戦では、経済的武器が初めて軍事的武器と対等の関係になった。
  敵国の経済システムを無力化することは、敵国の陸軍や艦隊を打ち負かすのと同じ軍事目的となった。

  平和を乱す国に対する経済制裁を行う場合、軍事制裁を覚悟しないのでは意味がない。
  経済の力は軍事的武器がそれを支える用意がなければ無力である。

  経済的な効率性の観点からは、自由放任主義により、各国が比較優位にある産品の生産に特化し、貿易を振興させるのが望ましい。
  しかし、国際関係において政治権力を確保するためには、自給自足経済を推し進めることが必要だ。
  第一次大戦では、封鎖が行われたり、世界の船舶の大部分が軍隊や軍用品の輸送に振り向けられたため、各国は緊急の自給自足経済を厳しく迫られた。

  国家政策の一手段として経済的武器を使う方法としては他に、「資本の輸出」と「海外市場の支配」がある。
  
(4)意見を支配する力
  意見を支配する力が最近ますます重要になってきた理由は、政治の基盤が拡大したことにある。
  
  民主主義国は大衆の意見に従うということになっている。
  全体主義国は、ある基準を定めてそれへの服従を強制する。
  しかし、実際にはこれらの差異はそれほどはっきりしたものではない。
  全体主義国は、その政策を決めるにあたって、大衆の意思を明確に示すふりをする。
  民主主義国を支配する人たちは、大衆の意見を形成し方向づける技術を知っている。
  これらの二つの体制とも、大衆の意見が最も重要だということについては、一致している。

  大衆の意見を形成し方向づける有力な手段は、万人向けの普通教育である。
  どの体制においても、子供は自国の伝統・信条・慣習に敬意を払うよう、そして他国よりも自国を良い国であると信じるよう教えられる。

  また、ラジオ、映画、出版の経営は、ますます少数の人々の手に集中するようになる。
  この集中が意見の中央集権的管理を助長する。
  思想的自由という十九世紀的概念は、意見を支配する新しい強力な手段の発達によって根本的に修正されつつある。
  
  全体主義国では、ラジオや出版や映画は政府の完全管理下にある国営産業である。
  民主主義国では、状況はそれぞれ異なっていても、あらゆるところで中央集権的統制の方向へと進んでいる。   

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「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」 [現代社会]

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  講談社現代新書の一冊、2017年6月刊。
  著者は河合雅司さん。

  日本はこのままでは人口の超高齢化により、社会の崩壊が進む。
  地方から人がいなくなり、一方、都市部はスラム化する。
  国や地方自治体は、財政収入がどんどん減少するので、行政サービスを縮小せざるを得なくなる。

1 日本の人口の見通し                 全体比
   2015年     1億2,710万人(うち15~64歳 7,728万人、60.8%)
   2065年(48年後) 8,808万人(       4,529万人、51.4%)
   2115年(98年後) 5,056万人(       2,592万人、51.1%)

2 今後、現れてくる現象
  ① 出生数の減少
     ・これまでの少子化の影響で、未来の母親となる女児の数が減少している。
     ・合計特殊出生率が多少増えても、出生数の減少は止まらない。
  ② 高齢者の激増
  ③ 勤労者世代(20~64歳)の激減に伴う社会の支え手の不足
  ④ 総体としての人口減少

3 具体的な影響
(1)地方の急速な人口減少と、地方自治体の税収不足
  ・1960年代の高度成長期に建設された道路や、上下水道などの社会インフラの老朽化が進んでいるが、地方自治体は維持・更新費用を捻出出来ない。
  ・水道事業は利用者が減る一方で、更新費用がかさみ、収支の悪化が激しくなる。
  ・税収不足により、自治体の職員確保も難しくなり、行政サービスの低下が進む。

(2)IT技術者が不足し始め、技術大国の地位が揺らぐ。
  ・IT産業の就業者は2019年をピークに、その後減少すると見込まれる。
  ・平均年齢も上昇し、2030年には41.2歳となる。
  ・IT人材の不足は、経済成長の大きな足かせとなる。
  ・外国からのサイバー攻撃などへの対策が十分にできなくなる。

(3)認知症患者が大量発生する。
  ・認知症患者が急増する。
    2012年 462万人、 2025年 730万人、 2060年 1154万人
  ・しかし、財政の悪化から病院や施設での受け入れが難しくなり、家族がサポートせざるを得なくなり、働きながらの介護や、介護のための退職といった家族へのしわ寄せが増える。

(4)「ダブルケア」に苦しめられる人が増える。
  ・子供の養育と親の介護のダブルケア
    母親の出産年齢の上昇により、子供が小さいうちに、親の介護が必要になる。
  ・夫と妻の親の両方のダブルケア
    一人っ子同士の結婚により、両方の親の介護をすることになる。

(5)医療体制の崩壊が進む。
  ・輸血用血液の80%は、がんや心臓病、白血病などの病気の治療に使用されており、こうした需要は今後急増する。一方、献血は10~30代の若い人の比率が高いが、こうした年代の人口減少により、血液の十分な確保が難しくなる。

  ・若い世代の人口減少により医師、看護師、薬剤師、病院の事務スタッフなどを十分に確保できなくなる。

(6)全国で空き家が増える。
  ・未婚率の上昇や、子供のいない世帯の増加により、後継ぎがいないため、全国で空き家が増える。
  ・15年後の2033年には、全国の住戸の3分の1が空き家となる。
  ・街の景観は崩れ、治安も悪化していく。
  ・大都市圏でも、空き家だらけのスラム化した老朽マンションが増える。

(7)火葬場が不足する。
  ・死亡者数は2039~2040年にピークを迎え、火葬場が不足する。
  ・東京など、都市部では火葬場の新たな建設も、近隣住民の反対があり容易ではない。

(8)地方の市町村の消滅
  ・人口減少に伴う財政収支の悪化により、地方自治体を維持することができなくなる。
  ・青森市や秋田市と言った県庁所在地も、消える可能性がある。

(9)財政の悪化
  ・人口減少により経済が停滞する中で、税金や社会保険料のアップと、年金のカットや医療負担率の引き上げなど、行政サービスの悪化が進む。

(10)食料の確保の難しさが増す。
  ・日本の人口が減少する一方、世界の人口は増え続け100億人を超す。
  ・日本の農業就業者の減少が進み、農地が荒廃する。
  ・こうしたことから、日本は2050年頃には深刻な世界的食糧争奪戦に巻き込まれる。


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「預金封鎖に備えよ」 [現代社会]

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 著者は財政学を専門とする小黒一正さん。
 朝日新聞出版、2016年10月刊。

1 日本の公的債務の規模
 2017年現在の、日本の政府総債務残高は1,306兆円。
 対GDP比率は232%で、世界でワースト1位。
 再三の債務危機で、年金抑制など厳しい支出削減策を強いられているギリシャでさえ200%。
 議会が債務上限を設定し、債務が増えすぎないようにしているアメリカは111%。

 日本では、日銀が「異次元金融緩和」ということで国債を年間80兆円も購入していることから、長期金利がゼロ近辺に押さえ込まれており、このため、政府の支出に歯止めがかからず、毎年、30兆円を上回るスピードで、国債が増え続けている。

 1,306兆円という規模は、国民一人当たり1,000万円にあたる。家族を4人とすると、1家族当たり4,000万円の借金があることになる。

2 財政危機が起こったら?
 ブラジルやギリシャなど、財政危機に瀕した国は少なくないが、日本も遠くない将来、この財政危機に見舞われる。

 これは、政治家はみな、選挙が念頭にあるため、増税とか歳出削減というような不人気な政策はとりずらいため。
 行きつくところまで行き、多くの国民がダメージを受けるような混乱の中で、公的債務の負担が一挙に解消される、ということになる。

 具体的には、国債の信認が失われると、
 ・多くの金融機関が国債を投げ売りするため、長期金利が上昇する。
 ・資本が海外に逃避するため、為替は円安方向に圧力がかかる。
 ・家計が預金などを引き出すため、一部の銀行で取り付け騒ぎが起こる。
 ・政府の資金繰りに対する懸念が生じる。
 ・政府は景気刺激策をとることができず、経済は急速に悪化する。
 ・物価が以下の理由から、急騰する。
   ① 物価上昇の懸念から、預金から土地や物に変えようとする動きが強まる。
   ② しかし、金利上昇が財政を破たんさせることになるため、日銀は金融引き締めを行うことができない。
   ③ 政府の財政破たんを避けるため、日銀による国債の直接引き受けを行えば、国債の信認がさらに失われ、長期金利上昇の圧力が強まる。

3 終戦直後の混乱
 戦時中の莫大な戦費のための支出から、1944年の債務残高は204%に達した。
 しかし、それが1948年では20%、1950年では14%と、急低下した。

 これは物価が急騰したため。
 前年比の卸売物価上昇率は、1946年が432%、1947年が195%、1948年が165%であった。
 1944年と1950年を比較すると、債務残高は、3.6倍に増加したが、名目GDPは、53倍に膨らんでいた。
 
 国民は、この間、インフレで生活が苦しくなったばかりではなく、以下のような政策により、多くの資産を失うことになった。

 ① 預金封鎖と通貨切り替え
    5円以上の旧銀行券をすべて金融機関に預けさせ、新銀行券で引き出せる金額を制限した。
    インフレが進行したため、金融機関に預けたお金は殆ど無価値となった。

 ② 各種の課税
   A 財産税
      一定額以上の財産保有者に対して1回限りの特別課税。
      税率は25~90%。富裕層の財産が没収された。
   B 非戦災者特別税
      戦災に会わなかった人を対象に、家賃の3~6か月分を徴収された。
   C 戦時補償特別税
      政府は民間企業に対する債務を支払う代わりに、それに対して100%課税した。
      事実上の踏み倒し。
   D 再評価税
      戦後のインフレによって増加した資産価値に対して6%の課税を行った。

4 今後、戦争直後と同じような政策がとられるか?
(1)戦争直後の場合には、大きな痛みを伴ったが、インフレ終息と財政再建に成功した。
   その要因は・・
   ① 戦費支出がなくなり、支出の削減が容易であった。
   ② それでも、財政の均衡のためには上記のような特別課税を必要としたが、敗戦後の混乱期であり、止むを得ないものとして受け入れられた。
   ③ 激しいインフレも、政策の失敗によるものというより、天災というような感覚で耐え忍ばれた。

(2)現在は、戦争直後よりも厳しい状況にある。
   ① 財政支出の大きな部分を占める社会保障費は、高齢化の進展により、今後、さらに増加することが予想される。
   ② 少子高齢化や人口減少が進むため、経済成長が見込めず、増税以外に収入を増やすのが難しい。
   ③ 平時の状況では、国民が嫌う増税や歳出削減は、なかなか行いずらい。

5 財政再建は可能か     
(1)いまから、財政再建に努め、混乱なく財政再建を行うことは可能であろうか。
   識者の間では「もはや手遅れ」という声が多い。
   遅いか早いかの違いで、いずれにせよ破たんは免れない。
   消費税増税の再延期は、その可能性を一層高めた。
   それならば先送りして傷口を大きくして破たんするより、いっそ早期に破たんした方が、まだ再生の余力が残る分だけマシなのではないか。

(2)しかし、国民の反発を嫌う政府は、異次元金融緩和という「麻薬」を打ち続け、できるだけ破たんを先に引き伸ばす。身体がボロボロになったところで、ちょっとしたショックにより、財政の信認が破綻することになる。
   経済は混乱を極め、政府はやむを得ず、国民を犠牲にして財政の信念を取り戻そうと必死になる。
   そこで、国民は1家族4,000万円という、それまでのツケを払わされることになる。


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北朝鮮に対する軍事的選択肢 [現代社会]

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 *BBC電子版(2017-8-30付)に拠る。

 北朝鮮のミサイルが日本上空を通過して打ち出された後、トランプ大統領はあらゆる選択肢が検討されていると言った。軍事的選択肢としては、実際にはどのようなものがあるのだろうか?
 アメリカは圧倒的な軍事力を保有しているが、北朝鮮のような隔離された国に対して使いうる選択肢は限られている。

1 封じ込めの強化
  アメリカは、 THAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の配備を含め、韓国における駐留米軍の戦力を増強することは出来る。
  しかし、これに対して韓国は北朝鮮との緊張を高めるとしてあまり積極的ではない。
  米国としても、イラクやアフガニスタンなど他地域での軍事的な展開が継続しており、実際には韓国での戦力増強の余裕はさほどない。

  北朝鮮のミサイルを打ち落とすためには、周辺地域での戦力増強が不可欠である。
  北朝鮮が大量のミサイルを保有しているのに対して、アメリカの迎撃ミサイルは大変高価であり、また、量的に限られている。
  このため、北朝鮮が周辺地域にあるアメリカの迎撃ミサイルがなくなるまで、ミサイルの発射を続けることが可能とみられている。

2 特定の目標のみを破壊する空爆
  潜水艦から発射され、正確に命中するトマホークミサイルや、B-2ステルス爆撃機による、北朝鮮の核施設やミサイル装置に対する攻撃は魅力的な選択肢に見える。

  しかし、ロシアや中国あるいは自国の技術が混合した北朝鮮の対空防衛能力は測りがたい。
  また、それらの施設を破壊したとしても、報復として北朝鮮軍が韓国領内に進攻するのを止めるのは難しい。
  在韓米軍も北朝鮮軍を撃退するのは時間を要するとみられ、ソウルを含め北部地域が戦禍に巻き込まれるのは避けられない。
  このため、韓国政府は米軍による先制攻撃には反対している。

3 全面侵攻
  北朝鮮の防衛能力や韓国の消極的態度などから、この選択肢の可能性は少ない。
  実際に地上軍が北朝鮮へ侵攻するためには、数か月にわたる兵員の増強、韓国政府の同意、ならびに北朝鮮の核攻撃能力の無力化などが必要である。
  また、両方に少なくとも数十万の犠牲者を出すことが予想される。

  本格的な両軍の戦闘のほかに、北朝鮮は低空、低速の複葉飛行機、小型船、超小型潜水艦などを使った大規模な奇襲部隊による韓国への侵攻も、長期間にわたり訓練している。
  こうした攻撃は混乱に拍車をかけることになる。

  万一、アメリカ軍が北朝鮮への侵攻に成功し、勝利を収めたとしても、アメリカは壊滅した北朝鮮を復興させる責任を負うことになる。
  北朝鮮は独裁政権下で、60年以上、慢性的な経済的困難と孤立状態にあった。
  南北朝鮮の統合は、東ドイツの統合とは比べ物にならない難しさを伴うことになる。

  現実には、アメリカにとっての北朝鮮に対する軍事的選択肢は、いずれも大きな代償とリスクを伴うものといえる。
 
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冤罪 松山事件 [現代社会]

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 *「死刑捏造」に拠る。
   著者は共同通信社の藤原聡さんと宮野健男さん。
   筑摩書房、2017年3月刊。

1 事件の概要
  1955年10月、宮城県松山町の農家が放火されて全焼し、焼け跡から一家4人の他殺体が見つかった。
  事件は70戸ほどの小さな集落で起こった。
  被害にあった一家は、集落で最も貧しい零細農家で、その家の妻は集落の他の多くの男性と関係を持っていた。
  このため、犯行の動機としては物取りよりは痴情による可能性が大きいとみられた。

  しかし、宮城県警は12月、現場近くに自宅があり、事件の後、東京に引っ越していた当時24歳の斎藤幸夫さんを別件の傷害容疑で逮捕した。

  斎藤さんは取り調べの3日目に自白。その後、否認に転ずるも、一審の仙台地裁は1957年10月、死刑の判決。1960年11月には最高裁が上告を棄却して死刑が確定した。

2 再審請求の道のり
  その後、死刑執行の恐怖におびえつつ、家族やボランティアの弁護団に支えられた再審請求のプロセスは以下の通り。
   1961年3月 仙台地裁に第一次再審請求
   1964年4月 仙台地裁、棄却決定
   1966年5月 仙台高裁、棄却決定
   1969年5月 最高裁、棄却決定
 
   (再審請求が途切れると、死刑執行のリスクが高まった)

   1969年6月 仙台地裁に第二次再審請求
   1971年10月 仙台地裁で棄却決定

   (この後、流れが変わった)

   1973年9月 仙台高裁、仙台地裁の棄却決定を取り消し、仙台地裁に差し戻し
   1979年12月 仙台地裁、再審開始決定。 検察側が即時抗告
   1983年1月 仙台高裁、検察の即時抗告を棄却。 検察は最高裁への特別抗告を断念。
  
   1983年7月 仙台地裁の再審開始
   1984年7月 仙台地裁、無罪判決。検察は控訴断念、無罪確定。
 
3 有罪で、死刑判決となった理由
(1)宮城県警は、別件で逮捕した斎藤幸夫さんを一家四人殺害事件の犯人にするため、以下のことを行ったとされている。
  ① 長時間にわたる取り調べで、自白を強要した。

  ② 取り調べ中の留置場で、斎藤さんと同じ部屋に入れた留置人に、斎藤さんに対し、取り調べで自白しても、裁判で否認すればよいと、それとなく話をさせた。
  (この留置人は、裁判でも、夜はうなされていたなど、斎藤さんに不利になる証言をした。また、警察はこの留置人の罪状の一部を起訴猶予にしたのではと疑われている)

  ③ 斎藤さんの家から押収した、斎藤さんが使用していた布団の襟あてに被害者のものとみられる血痕が付着していたという法医学者の鑑定が、物的証拠の決め手となったが、警察があとで付着させたのではと疑われている。

(2)鑑識の検査で、斎藤さんが着ていたジャンパーやズボンからは血液反応は出なかったが、これは斎藤さnが犯行後、家に帰る途中に川でこれらを洗ったためであろう、として無罪の証拠にはならなかった。
   しかし、再審での別の法医学者の見解では、洗ったとしても血液反応は出るはずで、もともとジャンパーやズボンには血液が付着していなかった、とされた。

(2)斎藤幸夫さんの取り調べにあたった数名の刑事は、自白を引き出し犯人を逮捕できたということで、後日、警察署長などに栄転した。

4 布団の襟あての血痕
(1)有罪判決では、唯一の物的証拠として重視されたが、再審では、被害者のものと思われる血痕が付着していたという鑑定を否定する、新たな鑑定が出され、これが無罪判決の決め手となった。

(2)当初の鑑定は、三木敏行東北大学助教授と古畑 種基東京大学教授が行ったもの。
   古畑は日本の法医学の草分けの一人で、三木はその弟子。
   古畑が鑑定を行った殺人事件のうち、弘前事件(懲役15年)、財田川事件(死刑)、松山事件(死刑)、島田事件(死刑)などでは鑑定に問題があり、後日、これらのいずれの事件も後に再審で判決が覆されている。

(3)再審裁判では、他の法医学者から、三木並びに古畑の鑑定方法に重大な欠陥があるとの指摘があり、また、これらの鑑定に先立ち血痕の付着なしとする宮城県警察技師による鑑定結果が裁判未提出証拠の中に存在することが明らかにされ、警察による証拠捏造の疑いが強まった。

5 その後
  斎藤幸夫は無罪釈放の後、支援者の紹介などで勤め始めるなど、社会復帰をしようとしたが、長続きせず、生活保護を受けるようになった。
  2006年7月、75歳で亡くなった。

  長年斎藤を支え続けた母は、2008年12月、老衰で息を引き取った。101歳だった。

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