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中国の漢方薬事情 [医療]

漢方市場.jpg

  *イギリスの経済週刊誌「The Economist」2017年9月2日号に拠る。


 亳州市(はくしゅう-し)は安徽省北西部に位置する都市で、そこの漢方薬薬材市場は中国最大である。
 サッカー場のような広さの市場では、1万人の商人が商いをしている。
 そこでは考えられるあらゆる薬剤が売られている。
 
 オス鹿の角は肺病の治療に使われる。
 沈香という香木は、その香りが肺をきれいにするといわれる。
 干したカエルやヤモリが売られており、また、シカのペニスはアルコールで溶解してスポーツ選手のけがの治療に使われる。
 チベットの冬虫夏草は、「ヒマラヤのバイアグラ」と称され、同じ重さの金よりも高い値段で取引される。
<冬虫夏草>
冬虫夏草.png

 この市場が、中国の漢方薬の値段を決めているといわれている。
 中国の漢方薬市場は活況を呈している。
 中国で、漢方薬を使用する病院の数は、2003年の2,500から2015年には4,000にまで増えている。
 漢方を使用する資格を持つ医師の数は、2011年から50%増え、45万2千人になっている。

 約6万種類の漢方薬が政府の食品医薬局の許可を受けており、漢方薬は薬全体の3分の1を占めている。

 漢方治療は、1911年の清朝崩壊後、迷信的だとして否定される傾向にあったが、驚異の復活を遂げているといえる。
 その理由の一つは、漢方薬が病気の予防に有効と考えられるようになってきたことによる。
 また、冬虫夏草のような高価な漢方薬は、ステータスシンボルともなっている。
 富裕層が増加し、健康志向が強まっていることが背景にはある。
 習近平国家主席が漢方薬の使用を推進していることもプラスになっている。

 今年の7月には、政府は漢方薬とその原料の安全基準に関する法律を施行した。
 薬草を栽培する際に使用を禁ずる肥料に関しても決められた。

 しかし、一方では医師の資格の条件緩和も実施された。
 従来は、一般医の資格を得たうえで、漢方医の資格を取得することとされていたが、一般医取得の条件が外された。
 これではインチキ医者が増えてしまうと心配する声もある。

 漢方薬を推奨する人たちは、漢方薬は平均すると西洋の医薬品よりも安価であり、また、漢方薬治療は高価な医療器械を使用しないので、医療制度の収支改善に貢献すると主張する。

 しかし、漢方薬が実際に効果があるとする証拠は多くはない。
 偏頭痛や肥満には有効という報告はある。
 統合失調症に対して、西洋の医薬品と合わせて使えば効果があるとの報告もある。
 ただ、全体的には、有効との結果は少ない。

 アメリカの研究機関は、70件の漢方薬治療を調査したが、有効との結果は見当たらなかった。
 オーストラリアの専門家の調査では、4分の1でなんとかぎりぎり効果を確認できる、という程度であった。

 漢方薬は治療よりも予防の面で、より有効とみられている。
 中国は中所得国ではあるが、心臓病や糖尿病などの慢性疾患が死因の85%を占めるなど、先進国並みの様相を呈している。
 こうした問題に対応するには、一般開業医が不足気味である。
 もし、漢方薬医が食事習慣の改善や禁煙指導を行うようになれば、大きな効果が期待できる。

 漢方薬はうまく使えば、偽薬としての効果が期待できるとの声もある。
 (化学的な効果はなくても、心理的な効果で症状が改善する)

 中国政府は、漢方薬を西洋の医薬品と同等のものとして推奨しているが、これは危険も伴う。
 適切な治療が行われないために、重篤な患者を増やしてしてしまうことが考えられる。
 また、絶滅を危惧される動物の密猟にもつながるとの声もある。
 漢方薬で最も使用頻度の高い材料112品目のうち22%は絶滅危惧種のリストにあるものだと専門家は言っている。
 センザンコウやアリクイは世界的に取引が禁止されている。
 漢方薬を支持する人たちは、一部の動物材料の使用禁止は効果のある漢方薬治療を不可能にするものだと不満を漏らす。

 政府は安全基準を向上させる必要もある。
 関節炎の治療に使われているウマノスズクサのある種は発がん性があることが分かった。
 昨年、食品医薬品局は81の漢方薬メーカーの免許をはく奪した。
 業界内では、漢方薬メーカーの50~60%は改善すべき問題を抱えているとの声もある。

 政府は漢方薬の有効性を強調しすぎている。
 しかし、その有効性を科学的に解明しようとするものは少ない。
 漢方薬に疑問を持つのは愛国心がないとみなされかねない。
 近代化を進めつつ、伝統にしがみつくというのは、中国では見慣れた光景だ。
 

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発展途上国の医療事情 [医療]

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* イギリスの経済週刊誌「The Economist」2017年8月26日号に拠る。

 インドのデリー西部にあるクリニックで女性が診察を受ける。
 クリニックの医師にとって彼女はその日の140番目の患者だ。
 しかし、その医師は疲れを見せない。
 医師は、二三の質問をし、血圧を測り、発疹がないか確認して終わりにする。
 病気はデング熱であったり、周辺のスラム街で流行っているウィルス性の伝染病かもしれない。
 その場合も、採血をして、経口水分補充錠剤を処方して、家に帰す。

 以前は病院が限られていたため、なかなか診てもらうことができなかったが、この2年間でデリーに158ものクリニックができ、住民は無料で、包括的な医療サービスが受けられるようになった。

 世界銀行によると、健康問題の90%は一般医で扱うことができる。
 発展途上国では、近年、一般医による初期治療システムの展開を進めており、それが寿命の延びと、幼児死亡率の低下につながっている。
 
 過去20年間、世界は特定の病気の克服に焦点を当てていた。
 世界の児童の86%は、ジフテリヤ、破傷風、百日咳などの予防注射を受けている。
 また、エイズ、マラリア、結核などの予防や治療などにより多くの命が救われてきた。

 しかし、発展途上国では慢性疾患による影響が大きくなり始めており、一般医による初期治療システムの確立が必要と考えるようになってきた。
 避妊、出産前検診、結核治療といったことも医療サービスとして欠かせない。
 WHOでは、こうした基本的な医療サービスを利用できない人が世界に4億人はいるとみている。

 提供されている医療サービスにも問題がある。
 第一に、心臓病や糖尿病などの慢性疾患を軽視する傾向にある。
 しかし、2020年には発展途上国で亡くなる人の70%はこうした慢性疾患によると推定している。
 また、高血圧患者の半分以上は自分の病気に気づいていない。
 治療を受けているのは、国により差はあるが、高血圧で7~31%、糖尿病で38~76%、神経症で18%にしか過ぎない。

 第二に、医療サービスの「量」ではなく、「質」に問題がある。
 例えば、インドの農村部では平均して一人当たり1年に6回、クリニックを訪れる。都市部では年平均5回である。アメリカ人は年平均3回しか、クリニックを訪れていない。
 しかし、インドの農村部では医師の50~80%は無資格である。
 バングラデッシュで65~77%、タイで55~77%、ナイジェリアで36~49%、ケニヤで33%が、無資格の医師による医療サービスとなっている。

 一人当たりの診察時間も短い。
 インドでの調査では一人当たり平均3分間で、OECD諸国平均の4分の1であり、その3分の1は1分未満となっている。
 検査は行われず、医師からの質問は「どこが悪いの?」だけ。
 適正な処置を受けたのは30%のみ。42%は不必要あるいは有害な処置を受けていた。
 
 中国での調査の結果も大差ない。
 一人当たりの平均診察時間は96秒。
 正確な診断をしたのは26%。明らかに間違った診断をしたのが41%。
 多くの医師が殆ど教育や訓練を受けていないのが、こうした状況の原因。

 資格のある医師にも問題がある。
 中国では、最近まで、処方する薬の販売益の一部を医師が受け取っていた。
 このため、抗生物質の過剰投与が広く見られた。
 例えば、風邪に対しても63%の医師が抗生物質を投与していた。
 
 
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白血病に対する遺伝子改変療法 [医療]

遺伝子治療.jpg
 *アメリカの週刊雑誌「TIME」最新号に拠る。

1 白血病の少女に対する治療
  生後1歳半で白血病と診断された。
  急性のリンパ細胞白血病は、子供のがんの4分の1を占め、完治が難しいがんである。
  抗がん剤などの化学療法により、生存期間を延ばすことは出来る。
  しかし、病気が進むにつれ、化学療法が利いている時間はどんどん短くなる。
  この少女の場合、最初の診断から3年間、いくつもの抗がん剤を使ってきたが、治癒させることは出来なかった。
  骨髄移植は、成功率が50%程度で、彼女の場合、拒否反応を示す可能性が大きかった。

  医師は両親に、通常の治療法で彼女に適用できるものはもうないが、新しい遺伝子治療の実験対象になる気があるか、と聞いてみた。
  それは危険を伴うものであったが、両親とその少女はその実験を受けることにした。
  三人は病院の近くのホテルに8週間泊まり、その治療を受けた。
  がん細胞は完全に彼女の身体から無くなった。

2 遺伝子改変T細胞療法
(1)以下の手順で行われる。
 ① がんを探し、破壊する機能を持つ「T細胞」を患者の血液から抽出する。
 ② 抽出したT細胞を、遺伝子改変して、がんに対する攻撃力を増強したキメラ抗原受容体を作る。
 ③ キメラ抗原受容体を大量に増殖させ、患者の体内に戻す。
 ④ キメラ抗原受容体は、がん細胞に特徴的なたんぱく質を認識し、それにとりつき、がん細胞を破壊する。

(2)この治療法は、一度行えば長期間、効果が持続する。

(3)米国食品医薬品局は、現在、この治療法を他の治療法では効果がなかった白血病の子供たちに対する標準治療法とすべきとの審議会の提言を検討中で、数週間以内に結論を出すものとみられている。

(4)この治療法を白血病だけではなく、乳がん、前立腺がん、すい臓がん、卵巣がん、肉腫、脳腫瘍などのがんにも応用すべきとの声もある。
   この治療法により、1,200億ドル(13兆円)という、アメリカ国内でがん治療に1年間で要する医療費を減らせるかもしれないと一部の人は期待している。

3 成人男性への適用
  10年間、白血病と闘ってきた、ある退役軍人は抗がん剤により、ぎりぎりのところでがんを押さえ込んでいた。
  しかし、再発までの期間がとても短くなっていた。
  医師が、実験的な遺伝子治療の話を持ち出した時、彼は直ぐにそれに飛びついた。
  
  彼はその治療を受けた直後、高熱、呼吸困難、腎臓の機能低下などの副作用があり、集中治療室に移され、遺伝子治療は効果がなかったとみなされた。
  
  6週間後に、もう一人の患者に対して、この治療法が行われた。
  この患者も同じように激しい副作用に見舞われた。

  しかし、医師は、これは免疫細胞が活発に活動し、がん細胞を攻撃しているためではないかと考えるようになった。
  医師は、この治療により、それぞれの患者の体内から1.1~3.1キログラムのがん細胞を取り除くことができたと計算した。

  退役軍人の男性は、治療を受けてからすでに7年間、健康を維持している。
  ただし、この治療により彼の免疫力は低下しているため、6週間に1回、肺炎や風邪から守るため免疫グロブリンの注射を受けている。

  二人目の患者もその後、がんの再発はない。

4 この治療法の今後
  この治療法を行った直後に生ずる激しい副作用が問題となる。
  死亡例も出ている。
  今後とも、症状をしっかりと監視し、ステロイド剤や抗生剤によ注意深く対応する必要がある。

  この治療法が高額であることも、もう一つの問題点である。
  それぞれの患者はこの治療で数十万ドル(数千万円)を支払う必要がある。
  この治療法のプロセスが、それぞれオーダーメイドであることによる。
  ある製薬会社では、この治療法を一般化して、より多くの患者に適用できる方法を研究している。


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エピジェネティクス [医療]

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 岩波新書の一冊。2014年刊。
 著者は、生命機能を研究する仲野徹さん。

1 エピジェネティクスとは
(1)ゲノムにおける塩基配列の違いが、個人個人の違いをもたらすというのが基本。
  ラマルクは用不用説で、獲得形質が子孫に継承されるとしたが、これは完全に否定された。
  例えば、キリンは木の上の方の葉を食べようと首を延ばしていたから、首が今のように長くなった、という考えは正しくない。
  首のあたりの細胞が変化しても、子孫に受け継がれるのは生殖細胞のDNAの塩基配列であり、首のあたりの細胞とは無関係。
  
(2)ラマルクは用不用説は否定されたが、しかし、ゲノムにおける塩基配列の違い以外にも、子孫に継承されるルートがあるのでは、というのがエピジェネティクスの考え方。
  DNAの塩基配列の変化を伴なわずに、染色体における変化によって生ずる、安定的に受け継がれる形質があると考えられるようになってきた。

2 エピジェネティクスの事例
(1)第二次世界大戦末期の1944年冬、オランダの住民はドイツ軍の食糧封鎖により飢餓状態に陥った。
  母親が飢餓に瀕している時に胎生後期を経験した赤ちゃんの出生時体重は極度に低かった。
  こうして生まれてきた人たちを50年後に調査したところ、高血圧、心筋梗塞などの冠動脈疾患、2型糖尿病などといった生活習慣病、さらには統合失調症などの神経精神疾患の罹患率が高かった。

  これは何十年もの間、飢餓の経験が体の中のどこかの細胞に記録されていたため、と考えられる。

(2)エピジェネティックな状態が世代を超えて遺伝する例も、数は少ないが見つかっている。
  例えば、少年時代に飽食を経験した男性の息子と孫息子は寿命が短いという研究結果が示されている。
  また、マウスを使った研究で、低たんぱく食を与えた父親から生まれた子供の肝臓では、脂質やコレステロールを合成するための遺伝子発現が上昇するという結果が見られた。

3 分子レベルでの機構
(1)DNAの二本鎖は、ヒストンというタンパクに巻き付いたうえで折りたたまれている。
   総延長1.8メートルにも及ぶDNAの二本鎖が、わずか5マイクロメートル(0.005ミリメートル)程度の直径しかない核の中にもつれずに収納されているのは、ヒストンという糸車に巻き付いてコンパクトに折りたたまれているから。

   このヒストンが、いろいろな酵素によって化学修飾をうけることで、転写の調節にも重要な役割を果たしている。
   例えば、ヒストンがアセチル化をうけると、遺伝子発現が活性化される。

(2)また、DNAを構成する四つの塩基のうち、シトシン(C)はメチル化修飾をうける。
   シトシンがメチル化をうけると、遺伝子発現が抑制される。

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4 がんの発症
(1)がんの原因は、染色体の異常やDNAの塩基配列の変異といった突然変異でああるが、それだけではなくエピジェネティックの異常も関与している。

(2)がん遺伝子の活性化は以下の二通りある。
  A 質的な異常
     がん遺伝子そのものに突然変異が生じて、異常に増殖を刺激してしまう。
  B 量的な異常
     遺伝子そのものに異常はないけれども、必要以上に大量の正常タンパクが発現してしまう。
     遺伝子の発現制御に異常が生じてしまうもので、DNA修飾やヒストン修飾など、エピジェネティック制御が関与する場合がある。
     遺伝子に変異がなくとも、がん抑制遺伝子が発現しなくなって、ブレーキが壊れた状態になる。

5 体外受精
  先進国において、最近では赤ちゃんのおよさ1~3%が体外受精によって生れてくる。
  体外受精では、着床前の初期胚の操作を伴うので、DNAメチル化に異常をきたす可能性があると指摘されている。
  対外受精によって生じるエピジェネティクス状態の異常が、稀な疾患を引き起こすだけではなく、生活習慣病などいろいろな疾患の発症に影響を与える可能性がある、と考える研究者もいる。


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うつ病の新薬開発に向けて [医療]

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  * アメリカの週刊誌「TIME」の最新号に拠る。

1 うつ病患者の一例
  21歳、過去6年間、いろいろな薬を試したが効果は数週間しかもたなかった。
  自分の気持ちは、悲しみというよりは無力感に近い。
  生きていないような感じ。しかし、生きていることに伴う面倒なことはしなければいけない。
  中学1年の時に、朝、ベッドから出ようという気持ちがなくなった。
  そのころから精神科医に見てもらうようになり、「ゾロフト」(日本の商品名は「ジェイゾロフト」)を処方された。
  しかし、効果はしばらくして消えた。その後処方された薬も同じだった。
  今年、大学を中退した。
  今は、新しい治療法を試したり、その効果を出てくるのを待ったりして、過ごしている。

2 うつ病の治療
  うつ病患者の約30%は、このように治療薬に対して持続的な効果を現わさない。
  人間の基本機能の改善を目指す薬としては、この数字は成功とはいえない。
 
  現在、成人のアメリカ人の6.7%(1,600万人)がうつ病の治療を受けている。
  2014年、世界全体でのうつ病薬の収入は145億ドル(1兆6,000億円)となっている。
  うつ病によるアメリカ経済の損失は年間2,100億ドル(23兆円)とみられる。
  
  過去30年間、うつ病薬に関しては革新的な新薬は出ていない。

  うつ病に対して化学物質を処方するようになったのは1950年代になってからである。
  最初に利用されたのはイプロニアジドであった。
  この薬は結核の治療薬として試されたが、この薬を服用すると、死に近い悲惨な状態の患者が高揚し、エネルギッシュで社交的になった。
  このため、1957年、少数の精神科の患者に試してみることにした。
  その結果、70%の患者に効果が見られた。
  このため、広範囲にこの薬は使用されるようになったが、この薬は肝臓を傷めるという副作用があることが分かり、1961年に使用が中止となった。

3 SSRI
  しかし、こうした薬がどのように効果をもたらしているかについて研究を進める中で、研究者はセロトニンなどの神経伝達物質の減少がうつ病を引き起こしているという考えに到達した。
  こうした考えから作り出されたのが「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」(SSRI)であり、最初に商品化されたのがイーライリリー社の「プロザック」であった。
  その後3年で、世界全体で200万人の人がこの薬を服用するようになった。
  プロザック以外のSSRIも数多く商品化された。
  
  SSRIは大変成功した薬ではあったが、完璧なものではなかった。
  服用開始後数週間経って症状が改善するようになるまでの間、症状の悪化が見られることがあった。
  また、SSRIで完全に症状が治癒するのは全体の35%程度であった。
  さらに新しい薬の開発が必要であった。

4 ケタミン
  最近の大きな進展は、ケタミンの再評価である。
  ケタミンは、幻覚症状を引き起こす脱法ドラッグとして知られている。
  また、麻酔専門医は麻酔薬として使用している。
  しかし、1990年代後半、ケタミンがうつ病をスピーディに和らげる効果もあることが分かってきた。

  現在、製薬会社2社がケタミンを基にした新しいうつ病薬を販売しており、うつ病薬としての承認は得られていないが、臨床の現場でうつ病に対し適用外使用され始めている。
  その結果は今までのところ良好であり、これまでの治療では効果が見られなかった患者のうちの60~70%で効果が見られた。

  ケタミンは自殺願望を抑制する効果も見られる。
  ケタミンは三角筋への注射により注入される。
  ケタミンがどのようなルートで効果を発揮しているのかはまだはっきりしていないが、SSRIと同じではないと考えられている。
  副作用についてはまだ分かっていないが、常習性があり、長期間乱用するとぼうこうへの毒性や認知症への関連が指摘されている。

  ケタミンの効果の持続期間は限られているので、患者は数週間ごとに注射をしてもらう必要がある。
  この注射はいまのところ保険適用外であり、患者は注射一回ごとに600ドル(6万6,000円)をしはらわなければならない。隔週で打つとすると、年間15,600ドル(172万円)かかることになる。

  ある専門家は、過去50年間で最も期待される治療法であるが、しかし、まだ分からないことも多い、広範囲に利用するのは時期尚早である、と言っている。

  ケタミンの常習性を危険視して、うつ病薬として使用することに否定的な専門家もいる。
  
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「がんと闘った科学者の記録」 [医療]

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戸塚洋二.png
  物理学者である戸塚洋二さんの闘病記録を、ノンフィクション・ライターの立花隆さんが編集。
  
  戸塚洋二さんは、スーパーカミオカンデという観測施設で、ニュートリノに質量があるという発見をして、1998年に発表。それまでの物理学の常識を打ち破る発見で、世界を驚かせた。スーパーカミオカンデによるニュートリノの観測については、小柴昌俊さんが2002年にノーベル賞を受賞をしたが、「ニュートリノに質量がある」という戸塚さんの発見も、ノーベル賞受賞間違いなしと言われていた。

  しかし、戸塚さんは2000年に大腸がんの手術をした後、2004年から多臓器への転移が続発し、ノーベル賞を受賞することなく、2008年7月に亡くなった。

  2015年になってようやく、戸塚さんの後継者である梶田隆章さんが、「ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」という功績で、ノーベル賞を受賞した。

1 病気の進行状況
   2000年11月 最初の大腸がん手術
        ステージ3a。リンパ節3か所に転移があった。
   2004年 2月 左肺転移発見(2か所)。手術で切除。
   2005年 9月 右肺転移(多数)。 手術不可。
   2006年 4月 化学療法開始
   2008年 1月 肝臓に転移。
       2月 骨に転移。
       3月 脳に転移。

2 研究の状況
  2006年4月に化学療法を開始するまで、仕事を続けた。
  岐阜県飛騨市にあるスーパーカミオカンデの近くに泊まり込むことも多かった。

  2001年11月には、スーパーカミオカンデに取り付けられていた11,200本の光電子増倍管のうち、7,000本が連鎖して損傷するという大事故が起こったが、戸塚さんが先頭になって修復を進め、1年で再稼働にこぎつけた。

  化学療法を開始する頃には、茨城県東海村の大強度陽子加速施設から発射したニュートリノを岐阜県のスーパーカミオカンデで観測するという新しい実験を2009年4月から開始することが決まっていて、戸塚さんはその時まで生きていたいと強く願っていた。

  しかし、そのころ、自分のCT写真を知り合いのがん研究者に見せて、「何とか2009年まで生きたい」と言ったところ、「それはないよ」と言われた。戸塚さんの願いはかなわなかった。

  なお、化学療法を始めてからも、週2回、仕事に通っていた。

3 ブログによる発信
  戸塚さんは亡くなる1年前の2007年8月から、自分の治療経過についてブログで発信を始め、亡くなる1週間前まで続けた。

  ブログの記事のいくつかを拾うと・・・
  2007年10月8日
   がん患者にとって一番の希望は何だと思いますか。
   私にとって一番の希望は、がんが完治する必要はない、今の状態でいいから少しでも長生きがしたい、です。
   しかし、耐えられない苦しみはご勘弁願いたいですが。
   
   2006年4月から抗がん剤治療を継続しています。
   体力は徐々に衰えていますが、抗がん剤の予想平均生存率の19か月はクリアできそうです。
   (実際には28か月目に亡くなった。)

  2008年2月10日
   お前の命は、誤差は大きいが平均値をとると後1.5年くらいか、と言われた時、最初はそんなもんかとあまり実感がわきません。しかし、布団の中に入って眠りにつく前、突如その恐ろしさが身にしみてきて、思わず起き上がることがあります。

   残りの短い人生をいかに充実して生きるか考えよ、とアドバイスを受けることがあります。
   このような難しいことを考えても意味のないことだ、というあきらめの境地に達しました。
   私のような凡人は、人生が終わるという恐ろしさを考えないように、気を紛らわして時間を送っていくことしかできません。

   何とか死の恐れを克服する、いってみればあきらめの境地はないのだろうか。
   あきらめの考えが一つ二つ思い浮かぶことがあります。
   ① 立派に成長した子供たちに、親からもらった遺伝子の一部を引き継ぐことができた。
   ② 早い死と言っても、たった10~20年の違いではないか。
   
  2008年3月28日
   2個の脳腫瘍がMRIで発見された。その周りが白濁して脳圧力が高い。
   このためいわゆる「せん妄」が起きて意識を失った。

   ついに末期がんに突入した。
   2000年11月に大腸がんの手術をしてから7年以上生きてきた。
   長い命を得たため、比較的可能性の低い骨転移や脳転移が起きたようだ。

一夫多妻制のモルモン教徒と遺伝性の難病 [医療]

ユタ州.png
  * BBC電子版に拠る。

1 ブリガム・ヤング(1801~1877)
  アメリカのモルモン教団の創始者で、ユタ州の州都ソルトレークシティーを建設した。ユタ大学並びにブリガム・ヤング大学の創設者でもあった。

  彼は一夫多妻制の熱心な擁護者でもあった。彼は最初は一人の妻をめとったが、亡くなる時には彼の家族には55人の妻と59人の子供がいた。
  さらに204人の孫が育ち、1982年の時点で、直系の子孫は少なくとも5,000人はいると考えられている。

ブリガムヤング.png

2 フマラーゼ欠乏症
  1990年、ある小児難病を専門とする医師が一人の少年を診断した。
  少年の顔は普通にない特徴を持っていた。顕著なひたい、低めの位置の耳、間隔の開いた目、小さなあご。また、少年は肉体的、精神的に遅れていた。

  医師は少年の尿を検査に出したところ、少年はフマラーゼ欠乏症という遺伝性の代謝異常であることが分かった。
  この病気はそれまで世界で13例しか見つかっていないほどの稀な病気であった。

  しかし、脳性まひを患っていると考えられていた彼の妹を調べてみると、同じ病気であることが分かった。
  その後、彼は他の医師とともに、生後20か月から12歳までの子供に8例をさらに見出した。
  いずれも同じ顔の特徴を持ち、発達の遅れがあった。大半の子は座ることができず、ましてや歩くことは出来なかった。
  これらの子はいずれもアリゾナ州とユタ州の境界地域にあるショートクリークという町に住んでいた。

3 ショートクリーク
  ブリガム・ヤングはソルトレークシティを数十年のうちに、人のまばらな砂漠地帯から一夫多妻制のユートピアとして発展させた。

  しかし、1930年代になると、教会やユタ州は一夫多妻制を禁止し、違反者は投獄するとともに罰金を科した。
  このため、一夫多妻制の信奉者は人里離れたショートクリークという州境の地域に移り住んだ。
  そこは州政府の目から逃れるには最適の場所であった。

  そこには現在7,700人が住んでいる。
  大半の家族には最低3人の妻がいる。彼らは天国に召されるためにはそれだけの妻が必要と信じている。

4 フマラーゼ欠乏症の原因
  この病気は、エネルギーを細胞に送るプロセスの異常を原因としている。
  異常は、このプロセスを促進する作用をするフマラーゼという酵素が少ないことによって引き起こされる。
  脳は体重の2%を占めるのみであるが、エネルギーの20%を消費している。
  このためフマラーゼ欠乏症のような代謝異常は、特に脳に現れやすい。

5 劣性遺伝子
  フマラーゼ欠乏症が稀な病気であるのは、劣性遺伝子により引き起こされるためである。
  すなわち、両親の両方からこの遺伝子異常を引き継いだ場合のみ、病気を発症する。
  片方からだけの場合は発症しない。

6 一夫多妻制の影響
  ショートクリークでは、人口の75~80%はここに移り住んできたときの二人の教会指導者の子孫であると考えられている。
  これらの人のうち数千人はフマラーゼ欠乏症の劣性遺伝子を保有しているとみられている。

  一夫多妻制と、他から隔絶したコミュニティが近親交配を比率を高め、遺伝性の病気を増やす結果となった。


若者の血液注入による老化防止 [医療]

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  *イギリスの経済週刊誌「エコノミスト」最新号に拠る。

  若者の血液を老人に注入して若返りを図るということが、動物実験だけではなく、人間でも試されつつある。

1 1950年代の研究
  ある歯科医が虫歯の原因を探るため、二匹の実験用ねずみを双方の傷口を癒着させることにより、血液が行き来するようにした。
  こうした並体結合の実験により、この歯科医は虫歯の原因が生まれつきのものではなく、食べる砂糖にあることを正しく見つけ出した。

  この並体結合の実験技術を他の研究者が利用し、驚くべき結果をもたらした。
  ① 老化に伴い骨密度が減少していた年老いたネズミの骨密度が並体結合の実験により向上した。
  ② 並体結合の実験により、年老いたネズミが4~5か月、平均よりも長生きした。

  しかし、並体結合の実験は拒絶反応の危険性や、結合した二匹のねずみのうち片方がもう一方をかみ殺すなど、問題も多発したため、その後、同様の実験は行われなくなった。

2 研究の復活
  2005年に、ある研究者が生後2~3か月のネズミと生後19~26か月のネズミを結合させた。それぞれ人間でいえば20歳の人間と70歳代の人間に相当する。
  そして、年老いたネズミの筋肉を損傷させ、その回復ぶりを見た。
  通常、年老いたネズミの回復は遅い。
  しかし、このねずみの筋肉の回復は若いネズミのスピードと変わらなかった。
  肝細胞の増殖実験でも、通常の2~3倍のスピードで増殖した。

  この研究の後、他の研究がこれを追って行われた。
  それによると、脊髄損傷、脳神経、腎臓心臓壁の肥大化などが修復された。
  逆に、若い方のねずみには一部、老化の促進が見られた。
  
  また、ネズミ同士だけではなく、年老いたねずみに人間の臍帯血を注入したところ、記憶力の向上が見られた。

3 効果発現の要因
  こうした実験結果により、何らかの効果があることは推測されるが、それがどのような要因によるのかという点についての解明が必要とされた。

  化学物質の信号が年老いたネズミの方の幹細胞に作用する、という考えが出された。
  また、研究者は若いネズミと年老いたネズミの血液の化学物質の違いを探った。
  古いネズミの血液が若いネズミの腎臓や肝臓でろ過されるためという者もいた。
  免疫細胞の増加スピードの向上に、その効果の原因を求める者もいた。

4 人間への応用
  人間では並体結合は出来ないので、若者が献血した血液から作られる血漿が使用される。

  カリフォルニア州にある「アンブロシア」という会社は、血漿の注入を受ける方の人から8千ドル(88万円)の参加料を取るということでひんしゅくを買った。

  また、「アルカヘスト」という会社は、アルツハイマー病の患者18名に対して4週間にわたって4回、若い人から採取した血漿を注入する実験を行った。
  ネズミの実験では効果が見られており、この実験でも同様の結果となることが期待されている。
  結果は年末までには公表される予定である。

  効果があるということであれば、効果を発現する物質を特定し、化学的に合成して製造することにより、世界に4,400万人いるとされるアルツハイマー病患者に応用することができるようになる。

  これまでの実験結果からみて、寿命を延ばすという効果を期待することは難しそうだ。
  しかし、老化とともに現れてくる疾病の治癒に貢献することにより、「健康寿命」を延ばすことは期待できそうだ。

「蘭学事始」 [医療]

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  中公クラシックスの一冊。2004年刊。現代文に訳されている。
  著者は杉田玄白(1733~1817)。
  江戸時代の医師。若狭国小浜藩医の後、日本橋オランダ流外科を開業
  
  前野良沢、中川淳庵らとともに、オランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を和訳し、1774年に「解体新書」として出版した。

 <解体新書>
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  「蘭学事始」は晩年に、「解体新書」翻訳時の苦労等を回想したもの。
  当初は私文書として保存されていたが、1869年、福沢諭吉はじめ有志一同が広く知らしめる価値ありとして、出版した。

 <蘭学事始>
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1 当時の医術
(1)中国から伝来した医術のほかに、江戸時代に入りオランダ流の外科療法が入ってきた。

(2)オランダ流の外科療法といっても、オランダ医師から通訳を通じての聞きかじりであり、結局は膏薬(こうやく)や油薬(あぶらぐすり)の調整法、使用法ばかりであった。

2 舶来品に対する規制の弾力化
(1)江戸時代初期は、西洋のことについては、すべてにわたって厳しい制限が課せられていた。通航が許されていたオランダに関してさえ、その国の文字を読み書きすることは禁止されていた。

(2)通訳の人たちも、オランダ語をただカタカナで書き留めておくといった程度で、もっぱら口で覚えてなんとか通訳に役立てていた。

(3)しかし、江戸の世も100年以上経つと、なんとなく西洋のことを遠慮する必要もないような雰囲気になってきた。通訳の人たちが、横文字を習い、あちらの本を読むことができるようにしたいと、幕府にお許しを願い出たところ、もっともな願いであると許可された。

(4)蘭書などを所持することも公認されているわけではないが、実際には所蔵している人もいるという状況になってきた。

3 「ターヘル・アナトミア」を入手
(1)1771年、江戸に来ていたオランダ人から、「ターヘル・アナトミア」など2冊の人体解剖の図解書を譲り受けた。代金は藩が支払ってくれた。しかし、そこに書いてある文章は理解することができなかった。

(2)もしこれらの本を直接に日本語に訳すことが出来たら、非常な利益になることは目に見えている。それなのに、これまでその方面に進もうと志を立てた人がいないのは、いかにも残念なことだと思った。

4 腑分け
(1)オランダの解剖書が手に入ったのだから、とにかくまず、その挿し絵図を実物と照らし合わせてみたいものだと考えていた。

(2)そこに町奉行の家来から、明日、千住の刑場でお抱え医師が腑分けをするので、お望みなら見学をしても良いとの知らせが届いた。翌朝、前野良沢とともに予定の場所に赴いた。

(3)良沢と私は、たずさえていったオランダの解剖図と照らし合わせて見ていたが、一つとしてその図といささかも違っているところがない。中国の古来の医書とは大いに異なっていた。

(4)二人は、今まで体の本当の形態も知らずに医者家業を続けていたのはなんとも面目ない、なんとか「ターヘル・アナトミア」を翻訳して体のことをもっと詳しく知り、治療に役立てたい、と話し合った。

5 翻訳作業
(1)早速皆で翻訳作業を始めたが、知っている単語は限られており、分からないことばかりだった。日が暮れるまで考え詰めても、一座の者がただお互いににらみ合っているだけで、わずか一、二寸ほどの長さの文章の一行でもわからないでしまうというありさまだった。

(2)しかし、ぴったりとした訳語を探し当てた時の嬉しさはたとえようもないほどだった。こんなふうに、あれこれと推測して訳語を決めていった。そしてその数も次第に増えていった。

(3)1か月の6、7回は集まって、このように思いを凝らし、精魂を傾け、苦心惨憺したのであった。およそ1年余りもたつと、訳語のたくわえも相当増え、読むにつれて自然にオランダ国の様子も飲み込めるようになっていった。

6 翻訳の完成
(1)4年の間に原稿を11回までも書き換えたあげく、ようやく「解体新書」翻訳の事業は完成した。

(2)振り返って考えてみれば、西洋の外科の法はすでに200年前から日本に伝わっていながら、直接にその西洋医書を翻訳するということは一度も試みられなかった。我々の最初の仕事が、およそ医学の一番の基本となるべき人体の内部構造を説いた本の翻訳であって、それが蘭書翻訳の始まりとなった。

(3)いよいよ出版するというとき、禁令を犯したとして罰を被るのではとの懸念があった。しかし、我が国の医学の道の発展のためということで覚悟して、決断した。さいわい幕府ならびに京都の朝廷にも翻訳書を献上することができた。万事差しさわりなくすんだ。

7 蘭学の発展
  翻訳を思い立ってから50年近い年月を経て、今や蘭学と呼ばれて全国に及び、年々に翻訳書も出るありさまと聞く。私は長い天寿を授けられ、この学問の開け始めの最初から経験し、今のように盛んになるまでの成り行きをこの目で許された。私はうれしくてならぬ。

オピオイド鎮痛剤 [医療]

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<オピオイド鎮痛剤>

  * アメリカの週刊誌「TIME]の最新号に拠る。

 アメリカではオピオイド鎮痛剤の中毒と副作用が問題となっている。
 2015年の1年間に、オピオイド鎮痛剤の過剰投与で亡くなった人は33,000人に達する。

 オピオイド鎮痛剤を常用する人の多くは、副作用を軽減するための薬を必要とする。
 例えば、吐き気を抑えるための薬、テストスタロン(男性ホルモン)をコントロールするための薬、あるいは腸の内面にあるレセプターが麻痺し腸の活動が不活発になった場合の薬など。

 鎮痛剤の使用をやめられなくなった場合に、禁断症状を軽減することにより、使用の中止を手助けする薬もある。

 2016年にアメリカ全体で、オピオイド鎮痛剤の処方箋が3億3,600万枚発行され、製薬会社に86億ドル(9,460億円)の収入をもたらした。また、オピオイド鎮痛剤の副作用に対処するための市場は30億ドル(3,300億円)にまで膨らんでおり、2022年にはそれが60億ドル(6,600億円)に達するとみられている。

<副作用に対処するための薬>
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 製薬会社は、オピオイド鎮痛剤の販売で数十億ドルを稼ぎ、さらにその過剰投与からくる副作用のための薬で数十億ドルを稼ごうとしている。

 副作用に対処するそうした薬は確かに必要なものである。そうした薬を処方された人が救急外来に駆け込む確率は63%減少したという調査結果もある。必要な薬を必要な人に適正な価格で提供されるようにしなければならない。

 副作用に対処するそうした薬は、特許切れで安価に提供されていた。自治体は利用の促進を図り、処方箋なしで市販薬として購入も可能になってきた。また、中毒者に対応するため自治体や病院自身もそういう薬を大量に購入している。

 しかし、ここ数年の間に製薬会社はそうした薬の価格を大幅に引き上げている。ある薬は9ドル(990円)から220ドル(24,200円)へ引き上げられた。こうしたことから、製薬会社は巨大な利益を得るようになってきている。また、製薬会社は薬の特許が切れると、少し効用を加えたものを出して新たに特許を取得し、独占のうまみを持ち続けている。

 オピオイド鎮痛剤の服用に伴う便秘のための薬は近年、利用が急拡大し、薬の価格が上昇するとともに製薬会社の利益も増大している。2014年の販売額は19億ドル(2,090億円)で、2022年には28億ドル(3,080億円)になるものとみられている。3年前にはオピオイド鎮痛剤の服用に伴う便秘のための薬は1種類のみであったが、2019年には8種類に増える見込みである。

 ある専門家は、「製薬会社が病気を作り出し、その治療のための薬を売っているようなものだ」という。議会でもこうした薬の価格引き上げを問題視するようになっており、規制が必要との声も強まっている。

  * 日本では厳しく規制されている。
    2年前には、トヨタ自動車の新任のアメリカ人女性役員が違法薬剤を密輸したとして逮捕された。