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「余命半年 満ち足りた人生の終わり方」 [医療]

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  ソフトバンク新書の一冊、2009年刊。
  著者は、がんの緩和医療に従事する大津秀一さん。

1 緩和医療とは
  末期のがん患者の心身の苦痛を取り除く医療。
  命を延ばす治療ではない。
  命は縮めないが、苦痛は取り除く。
  治療は主に薬を使用して行う。

  手術や抗がん剤などで治療効果が期待できなくなった末期のがん患者は、痛みなどの苦痛症状を我慢するのではなく、適切な緩和医療受けられる医療施設を探すべきだ。

2 末期のがん患者の苦痛症状
  痛み、全身倦怠感(身の置き所のないようなつらさ)、食欲不振(ものが食べられなくなる)、便秘、不眠、呼吸困難、嘔吐、歩行困難、せん妄(幻覚・妄想)、胸水・腹水、浮腫(むくみ)

3 がん患者が直面する問題
 ① 治療効果が期待できなくなった患者が、がん治療を専門とする病院から退院させられ、行き場所がなくなってしまう。 
 ② 痛みなどのつらい症状が出ているのに、医師が適切な緩和策を講じない。
 ③ 治療効果が期待できなくなった末期のがん患者に対して、抗がん剤の投与を続け、命を縮める。
 ④ 代替医療など、超高額治療を行う医療施設に騙されてしまう。

4 苦痛緩和のために使用する薬剤
 ① モルヒネなどの医療用麻薬
   大部分の患者は、モルヒネなどで苦痛を緩和できる。
   モルヒネなどの医療用麻薬を使用しても痛みが軽減しない難治性疼痛は、痛みを訴える患者の10%程度。
   モルヒネなどの医療用麻薬を継続使用しても、寿命を縮めたり、麻薬中毒になったり、脳に影響が出た、効かなくなったりすることはない。

 ② ステロイド
   炎症を和らげる作用があり、がんそのものに対しては効果はないが、がん患者の食欲不振、全身倦怠感、嘔吐、脳圧亢進など、多様な症状に対して効果を発揮する。

 ③ 鎮痛補助薬
   モルヒネなどの医療用麻薬が効きにくい、痛みに対して効果を発揮する。
   例えば、抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬などが有効。

5 最後の1~2週間
(1)鎮静
   亡くなる1週間前ほどから、これらの薬も効かなくなることが多い。
   こうした状態になると、患者さんの苦痛を取り除くため、鎮静薬を使用して、患者さんを眠っている状態にするという最終手段に頼らざるを得なくなる。
   鎮静の状態になると、話をすることも、意識を保つこともできなくなる。

(2)むくみ
   血液から水分が流出してむくみがひどくなるので、点滴の量を減らしていく必要がある。
   また、食欲不振となるが、点滴から栄養を入れても逆効果で寿命を縮めることになる。

(3)せん妄
   最後の数日になると、意識が混濁して幻覚が見えたりする。
   最後まで意識が清明な患者は極めて少ない。
   鎮静を行わなくても、傾眠状態という寝てばかりの状態になる。

(4)全身倦怠感
   死の24時間前前後が、身の置き所のないしんどさが強いようだ。
   それを過ぎれば、多くの場合では最後は穏やかな時間が待っている。



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「移植医療」 [医療]

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  岩波新書の一冊、2014年刊。
  著者は、橳島次郎さんと出河雅彦さん。

1 欧米との比較
  日本での、亡くなった方からの臓器移植は他の欧米諸国に比べかなり少ない。
  2016年の日本の死後臓器提供件数は、脳死下提供が64件、心停止後提供が32件、合わせて96件である。
  アメリカは15,947件、イギリスは2,456件である。
  アメリカはそれでも移植を待つ患者数が11万人もいるという。

  臓器移植は、1980年代に、臓器への拒絶反応だけを抑えて、感染防御への影響を最小限にする画期的な免疫抑制剤が開発され、臓器移植の成績が向上し、活発に行われるようになった。

2 日本で死後臓器移植が少ない理由
  日本で死後臓器移植が少ない理由として以下のようなことが挙げられている。
 ①和田心臓移植事件の影響
  1968年に札幌医科大学の和田寿郎教授によって行われた心臓移植が、ドナーの脳死判定ならびにレシピアントの移植の必要性の双方に対して疑惑の声が上がり、その後、脳死者からの臓器移植がタブーとされるようになった。

 ② 1997年には臓器移植法が成立したが、ドナーが生前に書面で提供意思を示していることなど、厳しい条件が課され、死後臓器移植の大幅増加には結びつかなかった。

 ③ 日本では生体移植へ過度に依存している。
   欧米では、生体移植がドナーの健康への影響の問題や、臓器売買などの問題から、積極的には行われていないが、日本では死後臓器移植よりも生体移植の方が多い。
   腎臓並びに肝臓の2012年の移植件数をみると、アメリカでは死後移植が16,878件に対して生体移植は5,865件と、死後移植の方が多い。
   それに対して日本では、死後移植が234件に対して、生体移植は1,798件と、生体移植の方が圧倒的に多い。

3 安楽死ドナー
  欧米では、脳死下臓器提供の不足を補うものとして、延命治療を中止して「安楽死」させた人を、新たな臓器提供源にしようという動きが出ている。
  具体的には、生命維持装置の停止を、本人の意思などに基づき医師と家族が決定し、心停止に至らしめ、臓器を摘出する。
  アメリカでは2009年に899人の安楽死ドナーがいた。
  一方、安楽死が合法化されていないフランスやドイツでは、こうした臓器移植は行われていない。
  日本では、延命治療の不開始や中止による安楽死を認める公的なルールはなく、安楽死ドナーによる臓器移植の議論には至っていない。

4 組織移植
  臓器移植のほかに、心臓弁、血管、皮膚、骨、靭帯、羊膜などの組織の移植が行われている。
  しかし、こうした組織の移植は臓器移植法の対象外で、公的な規制はない。 
  また、どれだけ提供され、移植に用いられているか、公的なデータもない。
  
  今後、組織移植の健全な増加を図るためには、組織移植にも臓器移植法が定める、配分の公平性確保、同意の義務付け、売買の禁止、あっせんの許可制などの公的管理を及ぼすべきだ。
  特に、海外の一部では人体組織の国際的な商取引が横行しており、日本がそうした取引を助長することのないよう、適切なルールのもとに組織移植を行っていく必要がある。



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「良きせぬ瞬間 医療の不完全さは乗り越えられるか」 [医療]

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  みすず書房、2017年9月刊。原著は2002年刊。
  著者は、アメリカの医師のアトゥール・ガワンデさん。

  自分の研修医時代の経験をもとに本書を執筆した。


1 外科医の技術習得
 どんな分野もそうだが、外科医の技術と自信は、屈辱的な経験を重ねて初めて身につくものである。
 ただし、音楽家や科学技術者と違い、医師の練習台は人間である。
 人間を相手に練習することに道義的責任を感じているが、それを口に出すことはほとんどない。
 病院は、外科診療に何の経験もない研修医を採用し、何年もかけて訓練を施し、やがてこうして育てた人々の中から管理職を選ぶ。
 どの分野でも、傑出した人々とそうでない人々の差は練習量の多さである。
 何よりも重要なのは、練習に耐えられる才能なのかもしれない。

 医療の現場で医師たちは患者に最高の診療を行う義務と、医者の卵に経験を積ませる必要性との間で常に葛藤している。
 研修医がいた方が患者と接する時間が増えるなど、いいこともある。
 しかし、どれだけ慎重に予防措置を講じても、たいていの場合、熟練した医者よりも未熟な医師の方がまずい結果となる。

 医師はこのことを知っているので、自分自身あるいは家族の手術の場合、熟練した医師を選ぶ。
 一般の患者にはそういう選択の機会はない。

2 新しい手術方法
 また、新しい効果的な手術方法が開発された場合も、習熟するのに経験が必要になる。
 心臓血管の異常に関する、ある新しい手術方法の開発で、最終的には手術の死亡率が大幅に改善した。
 しかし、最初の70例の手術では手術死亡率が25%にもなり、それまでの手術の6%を大きく上回った。

3 医者がミスを犯すとき
(1)医者は様々なミスを犯す。例えば・・
   ・手術の際に大きな金属器具を腹部に置き忘れ、患者の腸と膀胱壁を傷つけてしまった。
   ・がん専門外科医が、女性患者のがんのない方の乳房を生検したため、がんの発見が遅れた。
   ・心臓外科医が、心臓弁手術で重要な手順を抜かしてしまい、患者を死なせた。
   ・救急外来の患者が訴える激しい腹の痛みを、CTスキャンを撮らずに腎結石だと決めつけ、腹部大動脈りゅうの破裂を見逃し、患者を死亡させた。
    
(2)医療ミスをするのが一部の未熟な医者だけであるなら、医療過誤の事例は少数の医者に集中するはずだが、実際には、鐘型にむらなく分布している。
   重要なことは、悪い医者が患者を傷つけるのをいかに防ぐかではなく、良い医者が患者を傷つけるのをいかに防ぐかなのである。

(3)医療ミスを減らすことはできる。
   1940年代、手術中に麻酔が原因で患者が死亡した事例は、2,500回に1回の割合だった。
   1960~1980年代では、1万回に1回の割合で安定していた。
   しかし、毎年アメリカでは麻酔法が3,500万回実施されており、毎年3,500人が亡くなっていたことになる。
   このため、1980年代に画期的な研究が行われ、ミス排除や、問題の早期対応法が新たに考え出されたことから、死亡率は20万回に1回というところまで下がった。

(4)どんな方法をとるにしても、医者はつまづくことがあるわけだから、医者に完璧を望むのはお門違いなのだ。それよりもむしろ、完璧を目指すことを決してあきらめないことを期待してもらいたい。

4 良い医者が悪い医者になるとき
(1)医師は決して一般の人よりタフで、プレッシャーに強いわけではない。
   医療行為に問題が生じる理由として、以下のことがあげられる。
   ① アルコール中毒症
   ② 麻薬や精神安定剤の中毒
   ③ うつ病、躁病、パニック障害、心因性精神病などの深刻な精神障害

  臨床医の3~5パーセントは患者を診られる状態ではないと推定されている。

(2)我々はみな、完全でない人間の手に委ねられている。
   医者は、知っておくべきことを学んでおらず、判断ミスを犯すかもしれず、精神的に弱いところがある。
   私は医者として信頼できる人間か? 良心的か? 自分の限界を理解しているか?
   そうだと思いたい。そう思わなければ毎日の仕事を続けられない。
   だが本当のところはわからない。分かる者などいないのである。

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「抗生物質と人間」 [医療]

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  岩波新書の一冊、2017年9月刊。
  著者は、感染症を専門とする山本太郎さん。

  人間にとっての微生物の役割、抗生物質の過剰使用の影響などについて探る。

1 抗生物質の発見
  1928年にイギリスのアレクサンダー・フレミングが、培養実験中に生じた青カビがブドウ球菌の発育を阻害することを発見し、ペニシリンと名付けた。
  1940年になり、オーストラリア人のハワード・フローリーとイギリス人のエルンスト・ボリス・チェーンの二人が、ペニシリンの生成と薬剤化に成功して、病気の治療に使用することが可能となった。
  この三人は1945年にノーベル賞を受賞した。
  ペニシリンは結核などの感染症に対して劇的な効果を発揮した。
  また、1943年までにはペニシリンを大量生産する技術も確立され、戦争で負傷した兵士の治療にも使用された。

  日本では、戦争中の1944年に始めてペニシリンの生成に成功したが、本格的に使用されるようになったのは戦後の1948年になってからである。
  この時点で、ペニシリンを自給できたのはアメリカ、イギリス、日本の三ヵ国のみであった。

2 抗生物質が効く仕組み
  抗生物質は、微生物によって作られる、他の細胞の発育または機能を阻止する物質である。

  抗生物質が効く仕組みは以下の通り。
  ① 細菌の細胞壁合成を阻害する。
  ② 細胞膜の透過性の機能を阻害する。
  ③ 核酸の合成を阻害し、細胞のたんぱく質合成を停止させる。
  ④ リボソームに作用して、たんぱく質合成を阻害する。

  いずれも、ヒト細胞には影響しない物質が選ばれる。
  ウィルスは、抗生物質の標的となる細胞壁や細胞膜を持たないので、抗生物質の影響を受けない。

3 微生物であふれる地球
(1)微生物の存在
  地球では40億年前に原始生命が生まれ、そこから真正細菌と古細菌とが誕生した。
  そして、10億年前に初めて多細胞生物が誕生し、植物や動物などが生まれた。
  しかし、地球は依然として微生物で満ち溢れている。
  海洋生物の約90パーセントは微生物が占めている。

(2)微生物の役割
  微生物は、死んだものをミネラルやガスに変化させる。
  微生物がいなければ、世界は死んだ有機物で一杯になり、なにも生きていけなくなる。

  個々の微生物は、他の生物と複雑なネットワークを構成し、生態系の一部を構成する。

4 ヒトと細菌
(1)ヒトに常在する細菌
  それぞれのヒトの身体には約100兆個の細菌が常在している。
  ヒトは、細菌の存在がなければ、一日たりとも存在できない。

  ヒト遺伝子の総数は二万数千個から三万個。
  この極めて少ない遺伝子で、酵素やホルモンなど10万種以上あるたんぱく質を作り分けている。
  人に共生する細菌がその役割の一部を担っている。

  ヒトは、常在する細菌とともに「ヒト」を構成している。
  ヒトの常在細菌の種類は1000種以上。重量は数キログラムになる。
  
(2)共生細菌と免疫系
  免疫系は、危険な病原体(非自己)を排除する一方で、過剰反応に拠る自己損傷を防ぐという二つの相反する機能を持つ必要がある。
  このバランスが健康で成熟した免疫系には求められる。

  それが共生細菌のいない無菌動物では、ある種の病原体の排除がうまくいかない。
  また、免疫系の働き過ぎを制御する制御性T細胞の働きが阻害される。

  共生細菌は、免疫系が正常に機能するための陰の立役者になっている。
  
5 腸内細菌と肥満
(1)肥満などいくつかの非感染性疾患が、常在する腸内細菌の欠如により引き起こされる可能性が強い。
   アメリカにおいて州別に調べた結果、抗生物質の使用量と肥満者割合の間には強い相関が認められた。
   抗生物質は、特に乳幼児期の使用によって、腸内細菌に影響を与える。

(2)家畜への使用
   抗生物質を家畜に投与すると、成長促進効果があることが分かっている。
   人間が乳児期の抗生物質の使用により肥満になるのと同じ理屈である。

   家畜への使用については禁止している国もあるが、アメリカや日本では使用が続けられている。
   日本国内での2012年の抗生物質使用量は全体で1700トン。うち、人への医療用は520トン、家畜医療用は720トン、家畜成長促進用は180トンとなっている。

6 抗生物質と慢性疾患
  世界中で肥満、アレルギー、糖尿病が急増している。
  これは、ヒト常在細菌、なかでも腸内細菌の攪乱が原因かもしれない。
  腸内細菌の攪乱は、抗生物質の過剰使用、高糖分、高脂質の食事が引き金になって引き起こされる。
  抗生物質の使用は、感染症を抑制するが、同時に体内に常在する共生細菌を排除する。
  それがさらに免疫系の異常亢進と全身性の慢性炎症をもたらし、慢性疾患への引き金となる。

7 幼児期の影響
(1)幼児への投与
  幼児期に抗生物質を与えられると、肥満になる傾向がある。
  また、自閉症や慢性的な消化器疾患との関連性も指摘されている。

(2)帝王切開
  帝王切開により救える命がある。
  しかし、母から子への常在細菌の移行の機会が失われる。
  通常分娩では、胎児は膣内を流れる母の羊水を飲み込みながら出産に至る。
  この時、母の細菌が子に移植され、子は新たな命を始めるために必要な細菌を獲得する。
 
  経膣分娩を経ない帝王切開や乳幼児の抗生物質の過剰使用は、母から子への細菌の移行を阻害する。
  帝王切開の比率は、ブラジルで50%超、中国で45%と国によっては極めて高い。
  わが国の比率は2011年で19.2%となっている。

  

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新生児の難病へのゲノム解析の利用 [医療]

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 *アメリカの週刊誌「TIME]最新号に拠る。

1 ある赤ちゃんのケース
  ある生まれたての赤ちゃん。
  数時間おきにひきつけを起こし、けいれんした。
  その時、手足は異常に硬直し、首は曲がった。
  母親が母乳を飲ませようとしても飲まなかった。

  最初の夜に10回以上のひきつけを起こし、子供のために高度治療ができる病院に運び込まれた。
  しかし、その病院の医師もその赤ちゃんの症状には困惑した。
  赤ちゃんは新生児集中治療室で脳を調べられた。
  医師は両親に、原因ははっきりしないが、生き延びることは難しいだろうと告げた。

  度重なるひきつけは、新生児の脳が、免疫システム、消化システム、あるいは骨や筋肉の成長などを促進させるネットワークの形成を阻害する。このようなネットワークがないと、多くの幼児は深刻な発達障害により2歳まで生き延びることが難しくなる。

  医師は両親に、気管チューブを挿入するか、あるいはそういった延命策を行わないことにするか考えておくように言った。
  両親は、急いで新生児集中治療室内で、洗礼の儀式を行うことにした。

  しかし、その赤ちゃんにとり幸運なことが一つあった。
  その専門病院では、ゲノム研究が進んでおり、4か月未満の赤ちゃんで原因不明の病気にかかっている場合には、試験的に血液を採取しゲノムを調べることにしていた。
  生後6日目にその赤ちゃんの全ゲノム配列が解明された。
  その結果、通常ひきつけに対して使用される薬とは違う、幼児に対して使われることのあまりない薬が、より効果的であることが分かった。

  薬を変えてみると、赤ちゃんは周囲に対して、より活発に反応するようになり、母乳を飲むようになり、ひきつけも止まった。

  この赤ちゃんには、KCNQ₂という遺伝子に稀な異常があった。
  この遺伝子の異常が太田原症候群を引き起こし、それがひきつけの持続的な発生につながっていた。
  今のところ、この赤ちゃんの成長は、首のすわりや這い這いの開始で、やや遅れが見られるが、将来に影響する深刻な遅れはみられない。


2 新生児に対するゲノム解析の利用
  その病院では、説明のつかない病気を持つ100人の新生児のゲノムデータを保有している。
  そのうち半分は、症状の診断がついた。更に、その80%は命を救うことになる治療を施すことができた。
  こうしたことから、他の専門病院からもゲノム解析の依頼が来るようになった。
  その病院の医師たちは、ゲノム解析により多くの赤ちゃんを脳の発達の遅れから救うことができると考えている。

  しかし、新生児に対するゲノム解析の利用は、まだ一般的に認められているわけではない。
  費用は8.500ドル(93万円)で、健康保険でカバーされない。
  また、民間の会社ではゲノム解析に6週間もかかり、生きるのに苦闘してる新生児には長すぎる。

  ゲノム解析を新生児の治療に利用している病院は、ある有力投資家から1億2,000万ドル(132億円)の寄付を得て、運営されている。
  その病院では平均して4日でゲノム解析を終えることができる。
  最も難しいのは、ゲノム解析の結果から、その意味するところを引き出すことだ。
  ゲノム異常が見つかっても、病気に関連するのはそのうちのわずかである。
  
  遺伝子異常があってもその遺伝子の場所によっては、ひきつけが数か月で収まり、その後の発達に影響しないものが有る。
  しかし一方では、違う場所の遺伝子異常の場合、持続的なひきつけを引き起こし、脳の発達を阻害し、成長の遅れ、知的障害、脳性麻痺などの深刻な問題をもたらすことになる。

  現在、遺伝子解析は保険ではカバーされないが、医師たちは、遺伝子解析により有効な治療法が見つかり早期に治癒させることができれば、医療費の節約につながると主張する。
  遺伝子解析が広く利用されるようになれば、全米で年間10億ドル(1,100億円)の費用を節約できるという推定もある。


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読字障害 [医療]

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 *以下に拠る。
   「NHKスペシャル 病の起源 2」
       NHK「病の起源」取材班 編著、 NHK出版 2009年刊。

1 読字障害とは?
  知的能力にまったく問題がなく、感覚・運動障害もないにもかかわらず、読み書きのみが困難。
  アメリカやイギリスでは10人に1人、日本では20人に1人が読字障害の可能性がある。
  
  具体的には、文章をすらすらと読めない、読むスピードが遅い、読み飛ばしたりする。
  日常の記憶には問題はないものの、単語の暗記が不得意、文字や単語を正確に書けない。

  読字障害を持ちながら、特定の才能を発揮して活躍した人も少なくない。
  パブロ・ピカソ、ヘンリー・フォード、ウオルト・ディズニー、グラハム・ベルなど。

  読字障害を持ちながら、恐竜研究の第一人者となったジャック・ホーナー教授は、以下のように言う。
  「私にとって文字は言葉ではなく、絵のようにしか見えません。それぞれの単語が意味していることを理解するのに時間がかかってしまいます。」
  「幼稚園に入ってから中学校を卒業するまでの期間は、私にとって非常にっつらく苦しい時期でした。読み書き算数もいっこうに向上しなかった。」

2 学習障害
  読字障害は、学習障害のうちの一つ。
  学習障害には、読字障害のほか、書字障害、計算障害などがある。

  学習障害の原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒傷害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

  読むことが苦手だということ自体に気がついていなくて、とにかく学習することができないと考えられている人が沢山いる。

3 読字障害を生み出す脳のメカニズム
  脳の中には、言語を使ってコミュニケーションをとる機能が備わっている。
  しかし、「文字を読む」ためには、脳のさらに色々なエリアの働きが必要になってくる。
  文字を読むためには、話す事よりもとても長いプロセスが必要で、脳にとって非常に負荷のかかる難しい作業になる。

4 読みの習得
  文字は数千年前にヒトが作り出した発明品に過ぎない。
  脳には、文字を読むための専門領域がいまだ備わっていない。
  我々は、昔からある脳の機能を利用して、何とか読んでいるに過ぎない。

  読みを習得するには学習して覚えるしかない。
  読みは人間が本来必要とされた能力ではないため、その習得では個人差が大きい。

5 読字障害の克服
  アメリカには、読字障害の子供を支援する学校が約200ある。
  読字障害の子供には、特別な教え方をすれば、読み書きが問題のないレベルまで達することが分かってきた。

  その方法とは、以下のようにあらゆる感覚を総動員して覚えさせるという方法。
   ・書かれた文字を手で追いながらなぞらせる。
   ・腕を大きく動かして空中に文字を書く。
   ・声にも出して聴覚に訴えさせる。

  また、読字障害の矯正だけではなく、脳の優れた部分を刺激することに主眼を置く。
  子供たちの優れた面に目を向け、芸術、スポーツ、音楽、演劇、数学など、それぞれの子供に合った教育プログラムを用意する。

6 読字障害の人が持つ優れた能力
  読字障害の人々は、一般に視覚空間処理とパターン認識が非常に得意。
  断片的な情報を創造的に組合わせることができる。

  これは、左脳よりも右脳がより活性化しているため。
  右脳は、視覚的空間的に把握する役割を担っている。

  読字障害の子供たちの中には、非常に傷ついて、自信を喪失してしまっている子もいる。
  学校に行きたくなくなったりすることもある。

  誰にでも得手不得手があるように、脳にも得意なことと、そうでないことがある。
  読み書きが苦手なのは障害なのではなく、適した習得の仕方が異なるだけ。
  それをできるだけ早く見つけてあげることが重要。
  

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中国の漢方薬事情 [医療]

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  *イギリスの経済週刊誌「The Economist」2017年9月2日号に拠る。


 亳州市(はくしゅう-し)は安徽省北西部に位置する都市で、そこの漢方薬薬材市場は中国最大である。
 サッカー場のような広さの市場では、1万人の商人が商いをしている。
 そこでは考えられるあらゆる薬剤が売られている。
 
 オス鹿の角は肺病の治療に使われる。
 沈香という香木は、その香りが肺をきれいにするといわれる。
 干したカエルやヤモリが売られており、また、シカのペニスはアルコールで溶解してスポーツ選手のけがの治療に使われる。
 チベットの冬虫夏草は、「ヒマラヤのバイアグラ」と称され、同じ重さの金よりも高い値段で取引される。
<冬虫夏草>
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 この市場が、中国の漢方薬の値段を決めているといわれている。
 中国の漢方薬市場は活況を呈している。
 中国で、漢方薬を使用する病院の数は、2003年の2,500から2015年には4,000にまで増えている。
 漢方を使用する資格を持つ医師の数は、2011年から50%増え、45万2千人になっている。

 約6万種類の漢方薬が政府の食品医薬局の許可を受けており、漢方薬は薬全体の3分の1を占めている。

 漢方治療は、1911年の清朝崩壊後、迷信的だとして否定される傾向にあったが、驚異の復活を遂げているといえる。
 その理由の一つは、漢方薬が病気の予防に有効と考えられるようになってきたことによる。
 また、冬虫夏草のような高価な漢方薬は、ステータスシンボルともなっている。
 富裕層が増加し、健康志向が強まっていることが背景にはある。
 習近平国家主席が漢方薬の使用を推進していることもプラスになっている。

 今年の7月には、政府は漢方薬とその原料の安全基準に関する法律を施行した。
 薬草を栽培する際に使用を禁ずる肥料に関しても決められた。

 しかし、一方では医師の資格の条件緩和も実施された。
 従来は、一般医の資格を得たうえで、漢方医の資格を取得することとされていたが、一般医取得の条件が外された。
 これではインチキ医者が増えてしまうと心配する声もある。

 漢方薬を推奨する人たちは、漢方薬は平均すると西洋の医薬品よりも安価であり、また、漢方薬治療は高価な医療器械を使用しないので、医療制度の収支改善に貢献すると主張する。

 しかし、漢方薬が実際に効果があるとする証拠は多くはない。
 偏頭痛や肥満には有効という報告はある。
 統合失調症に対して、西洋の医薬品と合わせて使えば効果があるとの報告もある。
 ただ、全体的には、有効との結果は少ない。

 アメリカの研究機関は、70件の漢方薬治療を調査したが、有効との結果は見当たらなかった。
 オーストラリアの専門家の調査では、4分の1でなんとかぎりぎり効果を確認できる、という程度であった。

 漢方薬は治療よりも予防の面で、より有効とみられている。
 中国は中所得国ではあるが、心臓病や糖尿病などの慢性疾患が死因の85%を占めるなど、先進国並みの様相を呈している。
 こうした問題に対応するには、一般開業医が不足気味である。
 もし、漢方薬医が食事習慣の改善や禁煙指導を行うようになれば、大きな効果が期待できる。

 漢方薬はうまく使えば、偽薬としての効果が期待できるとの声もある。
 (化学的な効果はなくても、心理的な効果で症状が改善する)

 中国政府は、漢方薬を西洋の医薬品と同等のものとして推奨しているが、これは危険も伴う。
 適切な治療が行われないために、重篤な患者を増やしてしてしまうことが考えられる。
 また、絶滅を危惧される動物の密猟にもつながるとの声もある。
 漢方薬で最も使用頻度の高い材料112品目のうち22%は絶滅危惧種のリストにあるものだと専門家は言っている。
 センザンコウやアリクイは世界的に取引が禁止されている。
 漢方薬を支持する人たちは、一部の動物材料の使用禁止は効果のある漢方薬治療を不可能にするものだと不満を漏らす。

 政府は安全基準を向上させる必要もある。
 関節炎の治療に使われているウマノスズクサのある種は発がん性があることが分かった。
 昨年、食品医薬品局は81の漢方薬メーカーの免許をはく奪した。
 業界内では、漢方薬メーカーの50~60%は改善すべき問題を抱えているとの声もある。

 政府は漢方薬の有効性を強調しすぎている。
 しかし、その有効性を科学的に解明しようとするものは少ない。
 漢方薬に疑問を持つのは愛国心がないとみなされかねない。
 近代化を進めつつ、伝統にしがみつくというのは、中国では見慣れた光景だ。
 

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発展途上国の医療事情 [医療]

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* イギリスの経済週刊誌「The Economist」2017年8月26日号に拠る。

 インドのデリー西部にあるクリニックで女性が診察を受ける。
 クリニックの医師にとって彼女はその日の140番目の患者だ。
 しかし、その医師は疲れを見せない。
 医師は、二三の質問をし、血圧を測り、発疹がないか確認して終わりにする。
 病気はデング熱であったり、周辺のスラム街で流行っているウィルス性の伝染病かもしれない。
 その場合も、採血をして、経口水分補充錠剤を処方して、家に帰す。

 以前は病院が限られていたため、なかなか診てもらうことができなかったが、この2年間でデリーに158ものクリニックができ、住民は無料で、包括的な医療サービスが受けられるようになった。

 世界銀行によると、健康問題の90%は一般医で扱うことができる。
 発展途上国では、近年、一般医による初期治療システムの展開を進めており、それが寿命の延びと、幼児死亡率の低下につながっている。
 
 過去20年間、世界は特定の病気の克服に焦点を当てていた。
 世界の児童の86%は、ジフテリヤ、破傷風、百日咳などの予防注射を受けている。
 また、エイズ、マラリア、結核などの予防や治療などにより多くの命が救われてきた。

 しかし、発展途上国では慢性疾患による影響が大きくなり始めており、一般医による初期治療システムの確立が必要と考えるようになってきた。
 避妊、出産前検診、結核治療といったことも医療サービスとして欠かせない。
 WHOでは、こうした基本的な医療サービスを利用できない人が世界に4億人はいるとみている。

 提供されている医療サービスにも問題がある。
 第一に、心臓病や糖尿病などの慢性疾患を軽視する傾向にある。
 しかし、2020年には発展途上国で亡くなる人の70%はこうした慢性疾患によると推定している。
 また、高血圧患者の半分以上は自分の病気に気づいていない。
 治療を受けているのは、国により差はあるが、高血圧で7~31%、糖尿病で38~76%、神経症で18%にしか過ぎない。

 第二に、医療サービスの「量」ではなく、「質」に問題がある。
 例えば、インドの農村部では平均して一人当たり1年に6回、クリニックを訪れる。都市部では年平均5回である。アメリカ人は年平均3回しか、クリニックを訪れていない。
 しかし、インドの農村部では医師の50~80%は無資格である。
 バングラデッシュで65~77%、タイで55~77%、ナイジェリアで36~49%、ケニヤで33%が、無資格の医師による医療サービスとなっている。

 一人当たりの診察時間も短い。
 インドでの調査では一人当たり平均3分間で、OECD諸国平均の4分の1であり、その3分の1は1分未満となっている。
 検査は行われず、医師からの質問は「どこが悪いの?」だけ。
 適正な処置を受けたのは30%のみ。42%は不必要あるいは有害な処置を受けていた。
 
 中国での調査の結果も大差ない。
 一人当たりの平均診察時間は96秒。
 正確な診断をしたのは26%。明らかに間違った診断をしたのが41%。
 多くの医師が殆ど教育や訓練を受けていないのが、こうした状況の原因。

 資格のある医師にも問題がある。
 中国では、最近まで、処方する薬の販売益の一部を医師が受け取っていた。
 このため、抗生物質の過剰投与が広く見られた。
 例えば、風邪に対しても63%の医師が抗生物質を投与していた。
 
 
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白血病に対する遺伝子改変療法 [医療]

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 *アメリカの週刊雑誌「TIME」最新号に拠る。

1 白血病の少女に対する治療
  生後1歳半で白血病と診断された。
  急性のリンパ細胞白血病は、子供のがんの4分の1を占め、完治が難しいがんである。
  抗がん剤などの化学療法により、生存期間を延ばすことは出来る。
  しかし、病気が進むにつれ、化学療法が利いている時間はどんどん短くなる。
  この少女の場合、最初の診断から3年間、いくつもの抗がん剤を使ってきたが、治癒させることは出来なかった。
  骨髄移植は、成功率が50%程度で、彼女の場合、拒否反応を示す可能性が大きかった。

  医師は両親に、通常の治療法で彼女に適用できるものはもうないが、新しい遺伝子治療の実験対象になる気があるか、と聞いてみた。
  それは危険を伴うものであったが、両親とその少女はその実験を受けることにした。
  三人は病院の近くのホテルに8週間泊まり、その治療を受けた。
  がん細胞は完全に彼女の身体から無くなった。

2 遺伝子改変T細胞療法
(1)以下の手順で行われる。
 ① がんを探し、破壊する機能を持つ「T細胞」を患者の血液から抽出する。
 ② 抽出したT細胞を、遺伝子改変して、がんに対する攻撃力を増強したキメラ抗原受容体を作る。
 ③ キメラ抗原受容体を大量に増殖させ、患者の体内に戻す。
 ④ キメラ抗原受容体は、がん細胞に特徴的なたんぱく質を認識し、それにとりつき、がん細胞を破壊する。

(2)この治療法は、一度行えば長期間、効果が持続する。

(3)米国食品医薬品局は、現在、この治療法を他の治療法では効果がなかった白血病の子供たちに対する標準治療法とすべきとの審議会の提言を検討中で、数週間以内に結論を出すものとみられている。

(4)この治療法を白血病だけではなく、乳がん、前立腺がん、すい臓がん、卵巣がん、肉腫、脳腫瘍などのがんにも応用すべきとの声もある。
   この治療法により、1,200億ドル(13兆円)という、アメリカ国内でがん治療に1年間で要する医療費を減らせるかもしれないと一部の人は期待している。

3 成人男性への適用
  10年間、白血病と闘ってきた、ある退役軍人は抗がん剤により、ぎりぎりのところでがんを押さえ込んでいた。
  しかし、再発までの期間がとても短くなっていた。
  医師が、実験的な遺伝子治療の話を持ち出した時、彼は直ぐにそれに飛びついた。
  
  彼はその治療を受けた直後、高熱、呼吸困難、腎臓の機能低下などの副作用があり、集中治療室に移され、遺伝子治療は効果がなかったとみなされた。
  
  6週間後に、もう一人の患者に対して、この治療法が行われた。
  この患者も同じように激しい副作用に見舞われた。

  しかし、医師は、これは免疫細胞が活発に活動し、がん細胞を攻撃しているためではないかと考えるようになった。
  医師は、この治療により、それぞれの患者の体内から1.1~3.1キログラムのがん細胞を取り除くことができたと計算した。

  退役軍人の男性は、治療を受けてからすでに7年間、健康を維持している。
  ただし、この治療により彼の免疫力は低下しているため、6週間に1回、肺炎や風邪から守るため免疫グロブリンの注射を受けている。

  二人目の患者もその後、がんの再発はない。

4 この治療法の今後
  この治療法を行った直後に生ずる激しい副作用が問題となる。
  死亡例も出ている。
  今後とも、症状をしっかりと監視し、ステロイド剤や抗生剤によ注意深く対応する必要がある。

  この治療法が高額であることも、もう一つの問題点である。
  それぞれの患者はこの治療で数十万ドル(数千万円)を支払う必要がある。
  この治療法のプロセスが、それぞれオーダーメイドであることによる。
  ある製薬会社では、この治療法を一般化して、より多くの患者に適用できる方法を研究している。


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エピジェネティクス [医療]

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 岩波新書の一冊。2014年刊。
 著者は、生命機能を研究する仲野徹さん。

1 エピジェネティクスとは
(1)ゲノムにおける塩基配列の違いが、個人個人の違いをもたらすというのが基本。
  ラマルクは用不用説で、獲得形質が子孫に継承されるとしたが、これは完全に否定された。
  例えば、キリンは木の上の方の葉を食べようと首を延ばしていたから、首が今のように長くなった、という考えは正しくない。
  首のあたりの細胞が変化しても、子孫に受け継がれるのは生殖細胞のDNAの塩基配列であり、首のあたりの細胞とは無関係。
  
(2)ラマルクは用不用説は否定されたが、しかし、ゲノムにおける塩基配列の違い以外にも、子孫に継承されるルートがあるのでは、というのがエピジェネティクスの考え方。
  DNAの塩基配列の変化を伴なわずに、染色体における変化によって生ずる、安定的に受け継がれる形質があると考えられるようになってきた。

2 エピジェネティクスの事例
(1)第二次世界大戦末期の1944年冬、オランダの住民はドイツ軍の食糧封鎖により飢餓状態に陥った。
  母親が飢餓に瀕している時に胎生後期を経験した赤ちゃんの出生時体重は極度に低かった。
  こうして生まれてきた人たちを50年後に調査したところ、高血圧、心筋梗塞などの冠動脈疾患、2型糖尿病などといった生活習慣病、さらには統合失調症などの神経精神疾患の罹患率が高かった。

  これは何十年もの間、飢餓の経験が体の中のどこかの細胞に記録されていたため、と考えられる。

(2)エピジェネティックな状態が世代を超えて遺伝する例も、数は少ないが見つかっている。
  例えば、少年時代に飽食を経験した男性の息子と孫息子は寿命が短いという研究結果が示されている。
  また、マウスを使った研究で、低たんぱく食を与えた父親から生まれた子供の肝臓では、脂質やコレステロールを合成するための遺伝子発現が上昇するという結果が見られた。

3 分子レベルでの機構
(1)DNAの二本鎖は、ヒストンというタンパクに巻き付いたうえで折りたたまれている。
   総延長1.8メートルにも及ぶDNAの二本鎖が、わずか5マイクロメートル(0.005ミリメートル)程度の直径しかない核の中にもつれずに収納されているのは、ヒストンという糸車に巻き付いてコンパクトに折りたたまれているから。

   このヒストンが、いろいろな酵素によって化学修飾をうけることで、転写の調節にも重要な役割を果たしている。
   例えば、ヒストンがアセチル化をうけると、遺伝子発現が活性化される。

(2)また、DNAを構成する四つの塩基のうち、シトシン(C)はメチル化修飾をうける。
   シトシンがメチル化をうけると、遺伝子発現が抑制される。

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4 がんの発症
(1)がんの原因は、染色体の異常やDNAの塩基配列の変異といった突然変異でああるが、それだけではなくエピジェネティックの異常も関与している。

(2)がん遺伝子の活性化は以下の二通りある。
  A 質的な異常
     がん遺伝子そのものに突然変異が生じて、異常に増殖を刺激してしまう。
  B 量的な異常
     遺伝子そのものに異常はないけれども、必要以上に大量の正常タンパクが発現してしまう。
     遺伝子の発現制御に異常が生じてしまうもので、DNA修飾やヒストン修飾など、エピジェネティック制御が関与する場合がある。
     遺伝子に変異がなくとも、がん抑制遺伝子が発現しなくなって、ブレーキが壊れた状態になる。

5 体外受精
  先進国において、最近では赤ちゃんのおよさ1~3%が体外受精によって生れてくる。
  体外受精では、着床前の初期胚の操作を伴うので、DNAメチル化に異常をきたす可能性があると指摘されている。
  対外受精によって生じるエピジェネティクス状態の異常が、稀な疾患を引き起こすだけではなく、生活習慣病などいろいろな疾患の発症に影響を与える可能性がある、と考える研究者もいる。


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